新型コロナワクチン副反応を徹底検証【血栓症】極めてまれだが重症が多く命の危険も

英アストラゼネカ社製のワクチン接種をする男性(ロンドン)/
英アストラゼネカ社製のワクチン接種をする男性(ロンドン)/(C)ロイター

 新型コロナワクチンの副反応として、世界中で注視されているのが「血栓症」だ。海外では「ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症」(VITT)、日本では「血小板減少症を伴う血栓症」(TTS)と呼ばれている疾患で、ワクチン接種後、血小板の減少とともに体のさまざまな部位の静脈や動脈に血栓を生じる。日本脳卒中学会・日本血栓止血学会によると、重症の脳静脈血栓症が多く、通常の脳静脈血栓症に比較して脳出血を伴う頻度が高いのが特徴だという。脳梗塞、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺塞栓症)など命に関わる重病につながる場合もある。

 これまで、アストラゼネカ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチン接種後に発症するケースが報告されていて、欧州医薬品庁(EMA)は「非常にまれな副反応として記載すべき病態」と位置付けている。英国では、アストラゼネカ社のワクチンを接種した人では、50歳未満の約5万人に1人の割合で発生するとの報告がある。

 日本では厚労省が7月30日、副反応疑い報告義務を課す症状として、TTS(血栓塞栓症を含む)を追加。10月22日に公表された資料によると、ファイザー社のワクチン接種後にTTS疑いとして製造販売業者から報告された事例は32件(8月3日~10月3日/推定接種回数5261万5841回)。同じくモデルナ社は2件(8月3日~10月3日/推定接種回数1721万4529回)、医療機関から報告されたアストラゼネカ社の事例は1件(8月3日~10月10日/推定接種回数5万5614回)だった。

 いずれも、専門家の評価は「γ」(情報不足等によりワクチンとの因果関係が評価できないもの)とされている。とはいえ、厚労省は「一般的に見られる下肢静脈等の血栓症と比べて頻度はまれと考えられていますが、注意深く情報収集が行われています」と注視している。

 なぜ、ワクチン接種後に血栓ができてTTSが起こる可能性があるのか。東邦大学医学部名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏は言う。

「世界各国で機序の解明が行われていますが、まだはっきりしたことは分かっていません。ただTTSは、血液凝固阻止剤のヘパリンを投与した後にまれに起こる『HIT』(ヘパリン起因性血小板減少症)と非常に似ていることが報告されています。HITは、投与されたヘパリンが血小板第4因子と結合して複合体が形成され、その複合体に対してつくられたHIT抗体がさらなる血小板の活性化を引き起こすと考えられています。すると、血液凝固因子のトロンビンが過剰に産生されて血小板が凝集して血栓がつくられるとともに、血小板が消費され減ってしまうのです」

 TTSでも、血小板第4因子と新型コロナワクチンに含まれる成分が複合体を形成し、それに対してつくられた抗体が血小板の活性化を引き起こす可能性が指摘されている。

■類似するHITに準じた治療を行う

 TTSに対する治療は現時点でエビデンスが確立した方法はないが、欧米ではHITに準じた治療が有効である可能性が報告されているという。

「免疫グロブリン静脈療法と抗凝固療法です。前者は、ヒト免疫グロブリン製剤(IVIg製剤)を高容量投与する治療法で、体重1キロ当たり1グラムを2日間投与します。複合体に対する抗体が血小板を活性化するのを抑制するといわれています。抗凝固療法では、『DOAC(ドアック)』と呼ばれる直接作用型経口抗凝固薬が使われます。日本では、主に心房細動や静脈血栓塞栓症の治療で使われています。WHO(世界保健機関)の暫定ガイドラインでは、DOACの中でも活性化凝固第X因子(Xa)阻害薬が第1選択として提案されています」

 アストラゼネカ社のワクチンの添付文書では、接種後4~28日後に持続的な頭痛、霧視、錯乱、けいれん発作、息切れ、胸痛、下肢膨張、下肢痛、持続的な腹痛、接種部位以外の皮膚の内出血か点状出血などの症状に注意することが記載されている。

 ごくまれな副反応ではあるが、ファイザー社やモデルナ社も含め新型コロナワクチンを打った後にこうした症状が表れたら、すぐに医療機関で診てもらいたい。

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