Dr.中川 がんサバイバーの知恵

小倉智昭さんは後悔 セカンドオピニオンは放射線科医か腫瘍内科医に

小倉智昭さん
小倉智昭さん(C)日刊ゲンダイ

 キャスター・小倉智昭さん(74)の告白が話題を呼んでいます。2016年5月に膀胱(ぼうこう)がんを公表すると、当時務めていたレギュラー番組を1週間休んで治療したと報じられました。告白は、その治療についてです。

「5年前にがんが見つかった時点で、すべてを切っておけばよかった。こうなってしまったのも、自分のせいです」

 先月、ラジオ番組でこう語り、膀胱がんが肺に転移したことを明らかにしました。がん細胞は、肺のほかにも散らばっていて不思議ないそうです。小倉さんが自らを悔いているのは、膀胱の全摘手術をためらい、診断から2年半膀胱を温存する治療法を選択したことなのです。

 小倉さんはトイレで尿を確認する習慣があり、「トウガラシの粒」のような血尿を発見。それがキッカケで膀胱がんの早期発見につながります。医師からは膀胱の全摘手術を勧められたそうですが、全摘手術を拒否し、免疫治療を選択。18年の夏、膀胱がんが悪化し、トイレの便器が真っ赤に染まるほどの血尿で、全摘手術を決断します。

「(膀胱の全摘に)抵抗感はあります。やっぱり、男性機能を失うわけですから」

 全摘後に出演したフジテレビの番組でこう語っています。男性機能への未練が、全摘を拒否した理由のようです。がん細胞は10~20年かけて1センチに成長します。そこから2センチまではわずか1~2年。このタイミングが早期で、根治できる可能性があります。小倉さんが見つけた、痛みのない血尿は早期がんの特徴で、根治のチャンスでした。

 がんの治療は手術と放射線、抗がん剤で、血液系腫瘍を除く固形がんを根治できるのは手術と放射線です。小倉さんの医師は全摘を勧めたそうですが、小倉さんは免疫療法を選択しました。

「免疫療法や放射線などさまざまな治療があるので、それを調べた上で全摘を拒否したんです。取らないで済むんだったら、それに挑戦したい」とフジテレビ番組で選択のいきさつを語っていますから、ご自身で治療を調べて、決断されたのでしょう。

 がん治療は、敗者復活戦のない一発勝負。最初の治療がとにかく重要です。自分で治療を調べることは大切ですが、疑問点などがあれば、別の医師にセカンドオピニオンを求めること。その医師は、別の病院の外科医ではなく、放射線科医か腫瘍内科医です。これを知らない方がとても多いので、ぜひ頭に入れておいてください。

 膀胱がんを全摘すると、人工膀胱を余儀なくされます。14年に亡くなった俳優菅原文太さん(享年81)も、それが嫌で全摘を拒否。実は私のところにセカンドオピニオンを求めに来られ、放射線と抗がん剤を選択されました。その結果、診断時に「半年から1年」と宣告された余命は、7年に大幅延長。生活の質を落とすことなく大往生されました。

 小倉さんも、適切なセカンドオピニオンを求めていたら、後悔せずに済んだかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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