最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

“在宅”通して毎日誰かと会い見守られる生活を送れるように

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「在宅医療」を始められる患者さんというと、どういう方をイメージするでしょうか? 病院から余命を宣告され、残された時間を家族と過ごすため、退院して自宅に戻る──。そういう方が、真っ先に浮かぶのでは? しかし、在宅医療は決して、自宅で最期の時間を過ごしたいと願う患者さんや、みとりたいと願うご家族のためだけの医療ではないのです。

 実際、ひとり暮らしで闘病しており、しかしADL(日常生活動作)が低下し通院できなくなった。でも入院するほどではない--といった状況の中で、地域包括支援センターの斡旋で在宅医療を選択する方も、少なからずいます。

 超高齢化社会を迎えようとするこれからの時代では、むしろそんな患者さんが増えていくでしょう。その場合、ADLはどの程度なのか? 通院は困難か?在宅医療の導入が本当に適切なのか? 総合的な判断が求められるケースが今後は増えていくと予想されます。

 その患者さんは76歳の元トラック運転手さん。脳梗塞、高血圧症、痛風、慢性心不全、腰痛症、変形性膝関節症、認知症など複数の病気を患っていました。病気の影響で歩くのが不自由。また、火の不始末や転倒を起こすこと複数回。時には救急車で運ばれるようなこともあり、ADLが確保できているとは言い難い状態だったのですが、入院せず、ひとり暮らしを続けていました。しかし、通院が困難となり、在宅医療のスタートとなったのです。

 在宅医療では、ADLを維持向上するために、訪問看護による下肢筋力トレーニング、腰回りのストレッチ、マッサージ、下半身を中心とした運動によるリハビリを実施。歩行能力の改善を図り、さらにデイサービスでは集団での体操や運動、個別機能訓練、口腔機能の指導、そしゃく訓練などを行っていきました。病気治療に関しては、当院が2週間に1回の割合で定期的に医師が訪問。つまり、訪問診療、訪問看護、デイサービス、訪問薬局、ケアマネジャー、福祉用具レンタルなど複数の人で、この患者さんを支えることになったのです。

 やがて、こんな会話をされるほどまで、患者さんは安定していきました。

「先生、体重増えたよ、過食症なのかな、5キロ増えた」

「栄養が減って痩せてしまうと動けなくなってしまうので、とりあえず食事の量については様子を見ましょう」

 ひとり暮らしですが、在宅医療によって、毎日誰かと会い、見守られる生活を送れるようになった。不安な精神的ストレスからも解放されていったのです。

 重症とは言えないまでも体調が思わしくなく病院に通えない。そんな患者さんも、在宅医療では見守りの対象なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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