認知症を予防する補聴器のすべて

音が聞こえるようになったから…家族との会話が弾むように

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「家にいるだけだから、補聴器なんて必要ない」

 時々、こんなふうにおっしゃる方がいます。しかし、補聴器というものは地域のコミュニティーに積極的に参加したり、実社会で現役として仕事を続ける人だけのものではありません。

 もちろん、ご家族や長年気心の知れたお友達に囲まれ、多少聞きづらくても、彼らが優しく根気よく伝わるまで耳元で大きな声で話してくれるから大丈夫、と安心されている方もいるでしょう。

 ですが、家にいることが多く会話する相手がご家族だけという方も補聴器が必要だと考えます。

 そんなご家族との会話の大切さを考えさせられた97歳の女性のお客さまがいました。補聴器を試すために息子さん夫婦と来店。ご本人は「そもそも家でテレビを見るだけだから補聴器はいらない」。それを、息子さん夫婦と一緒に説得し、補聴器をつけていただいたのですが、初めは水の音や咀嚼(そしゃく)音などの音がうるさいと感じられていた様子。装用指導を続けた結果、補聴器の音にも慣れ、さまざまな音が聞こえるようになり、さらに電話でのやりとりや声の小さな方との会話も可能になりました。また、ご家族とも食事の時の会話が弾むようになったそうです。

 もしかしたらご高齢の方が、知らず知らずのうちに家族だんらんに参加しなくなったり積極的に会話に参加しなくなるのは、単純に聞こえづらいからなのかもしれません。

 会話には2種類あります。一つは「危ない!」とか「ご飯!」といった情報を伝えるためのもの。もう一つは挨拶や世間話など、人間関係をつくるためのもの。前者は聞こえなくても何度でも言い直してくれますが、後者は違います。一見どうでもよい会話だと思われるかもしれませんが、それこそ人間関係を築き人生の楽しみを与えてくれるはず。

 補聴器は言葉だけでなく、心も一緒に通わせるツールなのです。

田中智子

田中智子

シーメンスの補聴器部門でマーケティングの勤務を経て、2020年補聴器販売会社「うぐいすヘルスケア株式会社」設立。認定補聴器技能者資格保持。

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