CDC(アメリカ疾病対策センター)によれば、コロナが猛威を振るった2020年5月からの1年間にドラッグ過剰摂取で死亡した人は10万人で、前年を3割近く上回ったことが明らかになり衝撃を与えています。同じ時期にコロナで亡くなったアメリカ人は50万人。こちらも驚きの数ですが、それに輪をかける悲劇となりました。
中でも最も多かったのは、モルヒネの50倍から100倍の強さを持つフェンタニルと呼ばれるオピオイド系の合成麻薬による過剰摂取死で、6万4000人もの人が亡くなっています。
ではなぜコロナ禍でこれほど増加したのか? まず依存症の人が自宅隔離で孤立して使用量が増えたり、使用をやめていた人が医療やカウンセリングなどのサポートを受けられなくなって再び依存症になってしまったなどのケース。これは専門家でなくても容易に想像できます。
しかし違法フェンタニルが恐ろしいのは、中国から輸入されアメリカやメキシコのドラッグカルテルを通じ、通常の処方鎮痛薬と見まがう姿でネットやソーシャルメディアを通じて売られていることです。例えば手術後などの強い痛みに処方されるオキシコンチンは依存性が強いことで知られていますが、それと見かけがまったく同じ錠剤にフェンタニルが含まれ、知らずに購入し摂取した人が急死するケースが後を絶ちません。また、親が所有する錠剤を間違って口に入れた乳幼児が亡くなるという事例もあるほど、アメリカの日常に深く入り込んでいます。
特にゾッとするのは、10代に人気のSNSスナップチャットを通じて売られたフェンタニル入りの錠剤を摂取した若者が相次いで亡くなったケースです。スナップチャットはAIを使ってドラッグディーラーを取り締まるとしていますが、どれほどの効果が上がるのだろうかという懐疑的な声も少なくありません。
すべてがオンライン化し人々が孤立する中で増え続けるドラッグによる死は、場所も年齢も選ばない、もうひとつのコロナ禍としてアメリカを震撼させています。
ニューヨークからお届けします。