病気を近づけない体のメンテナンス

耳<下>耳の不調を解消する1分間内耳エクササイズ 専門医が解説

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写真はイメージ(C)PIXTA

「耳鳴り」「難聴」「めまい」などの耳のトラブルは、耳の病気によって引き起こされるものと、原因がよく分からないものがある。ただ、原因不明の場合でも耳の不調には、年齢、生活習慣、体質が深く関わっているので、ある程度は要因を推測することができる。

 埼玉医科大学客員教授(耳鼻咽喉科)で、「川越耳科学クリニック」(埼玉県川越市)の坂田英明院長が言う。

「耳の不調を訴える患者さんに多い体質面の問題は、『代謝(体内で生じる化学反応とエネルギー変換)』の低下です。具体的には、お腹に内臓脂肪がたまる『メタボリックシンドローム(以下、メタボ)』や、水分代謝の低下による『むくみ』が、耳のトラブルに深く関わっています」

 メタボは、過食や運動不足で肥満に陥り、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が重なり、血液がドロドロになっている状態。血液の流れが悪くなれば、「内耳」に供給される酸素や栄養が乏しくなり、耳鳴り・難聴・めまいが起こりやすくなる。

 ちなみに内耳は、体の回転運動を感じる「三半規管」、体のバランス情報を脳に伝える「前庭」、音の振動を電気信号に変換し脳に伝える「蝸牛」から成る。

 むくみがあれば、この内耳にも余分な水がたまりやすくなる。特に、回転性のめまいや耳鳴りなどを伴うメニエール病は、内耳のむくみが原因であることが指摘されている。

「とりわけ、メタボやむくみを招く要因は、体をあまり動かさないこと。つまり、一日中座りっぱなしの『不活発な生活』が根底にあります。WHO(世界保健機関)は、死に至る危険因子として高血圧、高血糖、喫煙とともに『身体不活動』を挙げています。それは全身の血流が悪化し、各臓器の働きが衰えるからで、内耳も同じです。ただ、不活発な生活は血流不足以外にも内耳に悪影響を及ぼします。体を動かさないでいると、『耳石』という器官が動かなくなるのです」

 内耳の前庭では、有毛細胞の上に炭酸カルシウムの結晶である耳石が層をなしてのっている。頭や体が傾くと耳石が動いて有毛細胞を刺激し、その情報が大脳に伝わり、自分の頭がどこを向いて、どのように動いているかを感じ取っている。

 しかし、不活発な生活を続けていると耳石があまり動かなくなり、有毛細胞に刺激が伝わりにくくなる。すると、音の振動を脳に伝える有毛細胞が衰えて耳の不調が起こりやすくなるのだ。

シコ踏みの要領で
シコ踏みの要領で(提供写真)

 そこで坂田院長は、耳鳴り・難聴・めまいに悩まされている患者に「内耳エクササイズ」というセルフケアを指導しているという。内耳の有毛細胞を活性化させることを目的とした1分程度でできる簡単な体操で、2種類ある。1つ目の体操は、30分に1回、椅子から立ち上がるだけ。やり方はこうだ。

■耳スクワット

 デスクワークや自宅でテレビを見ているときなど、椅子に30分くらい座りっぱなしの状態が続いたら、椅子から立ち上がる。立ち上がったら、1分程度、背伸びをしたり、前屈・後屈をしたり、トイレに行ったりして、気分転換を行う。これを日常生活でクセになるように習慣づける。

「30分おきに椅子から立ち上がることは、NASA(アメリカ航空宇宙局)も宇宙ステーションで活動するスタッフに推奨しています。宇宙空間では地上の10倍の速さで骨や筋肉、血管の老化が進みますが、それは無重力状態で耳石が動かないことが大きな要因であるからです。地上でも同じで、立ち上がる動作をすると頭が動くので、耳石が刺激されて有毛細胞が活性化します。また、座りっぱなしによる血流悪化の予防にもなります」

 2つ目の体操のやり方はこうだ。

■1分シコ踏み

 相撲の力士が土俵入りのときに行うシコ踏みの要領で、両足を大きく開き、上半身は真っすぐ、両手はひざの上に軽くのせ、つま先は外側に向ける。この姿勢から片足を上げ、もう片方の足に重心をかける。重心をかけた方の足が真っすぐになるように意識し、片足を上げたまま2秒キープする。そして上げた足を下ろすのと同時に腰を下ろす。このとき骨盤を真っすぐ立てた状態で、腰をゆっくりと落とす。もう片方の足でのシコ踏みも同様に行う。

 シコ踏みも頭が大きく動くので、内耳の三半規管や耳石、有毛細胞に良い刺激を与えることができるという。

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