働き方が多様化し、「始業時間が遅くなった」「ランダムになった」という方は少なくないかもしれません。午前9時の始業がルール化されていた人にとって、午前10時に後ろ倒しされるだけで、時間の使い方は大きく変わるでしょう。
実際、後ろ倒しにするメリットが報告されています。ワシントン大学のダンスターらの研究によれば、「学校の始業時間を約1時間遅らせると、生徒の睡眠時間が30分ほど長くなり、成績の向上にもつながった」という結果があります。
ダンスターらは、2017年にシアトルにある2つの公立高校の始業時間を2週間だけ55分遅らせて(7時50分→8時45分)、学生の睡眠時間にどのような変化が表れるのかを実験しました。
その結果、睡眠時間に改善が見られ、前年比の平均睡眠時間が34分長くなり、成績も平均4.5%向上。所得の低い家庭の学生が多く在籍する高校では、遅刻の回数や出席率においても改善が明らかだったといいます。
これだけみれば、始業時間を遅らせた方がいいと多くの人が思うでしょう。実際、遅らせた分だけ運動や朝活をする時間が増える、はたまた純粋に睡眠時間を確保できるのですからメリットも大きい。ところが、すべての人に当てはまるわけではないから厄介です。
英バーミンガム大学のフェイサー=チャイルズらの研究(19年)では、午前2時に寝て午前11時くらいに起きる夜型人間にとっては、「9時5時勤務は不利」と報告しています。夜型生活の人は、その生活習慣を変えない限り、仮に1時間スライドさせても改善は見られないというのです。
チャイルズたちは、午後11時前に寝て午前6時半に起きるといった朝型人間と、先述した夜型人間の脳をスキャンした上で、脳の働きを比較しました。その結果、午前8時から午後8時までの時間帯では、夜型人間の脳内では集中力をつかさどる領域の活動が少ないことが分かったといいます。注意力が散漫になる、反応が遅くなる、睡魔に襲われやすくなるといった傾向が見られたそうです。夜型傾向にある人が開始時刻を遅らせたとしても効果は薄く、まず夜更かしそのものを見直さなければならないのです。
基本的に人間は朝、光を浴びることでストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを分泌します。それによって脳が動き始めるのですから、朝日をきちんと浴びないと体内時計に悪影響が出てしまいます。それが続くとストレスや不安に襲われやすくなってしまいます。
ただし、夜型をやめなさいとは言えない事例も。イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学のジャンピエトロとキャバレラは、バラバラの年齢層の男女120人に夜型か朝型かアンケートに回答してもらった上で、創造性や思考力を試すテストを行いました。すると、夜型の人ほど高いスコアを残せたのです。“ジブン時間”を効果的に使うことが大事なのでしょう。ですが、夜更かしが不摂生になると心身ともに悪影響。睡眠時間だけはきちんと確保するように。
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