認知症は症状が出る前に発見! アミロイドPET検査で発症を食い止める

症状が出てくる前に対策を
症状が出てくる前に対策を(C)PIXTA

「早期発見、早期絶望」ともいわれてきたのが、認知症のひとつ、アルツハイマー病だ。根治薬がないため、そのような言葉が出てきた。これに対し、認知症研究・治療で世界的に知られる新井平伊医師は、アルツハイマー病の「超早期発見、早期希望」を目指す。

 新井医師は順天堂大大学院教授を退官後、2019年、「アルツクリニック東京」院長に就任。世界に先駆けて、アミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。

 新井医師が言う。

「アミロイドPET検査は、アルツハイマー病の原因となるタンパク質、アミロイドβが脳の中にどれくらい蓄積しているかを調べるものです」

 アミロイドβは、アルツハイマー病発症の20~25年ほど前から蓄積し始める。この時点ではまったくの無症状で、認知機能も正常だ。

 しかし、脳の中では変性が着々と進んでいる。アミロイドβの蓄積によって、タウというタンパクも蓄積。神経細胞が死滅し、脳が萎縮。やがて認知機能の低下が始まる。つまり、アルツハイマー病の発症となる。

「アルツハイマー病を発症させない、進行させないためには、いかに早くアミロイドβの蓄積を発見するかが肝心。ところが症状が出てくるのは、脳の萎縮が始まってから。この段階からの対策では不十分で、症状が出てくる前に対策を講じたい。アミロイドPET検査が、それに役立つのです」(新井医師)

■MRIやCTでは「早期」は見つけられない

 現在、アルツハイマー病に至る過程は「健常者→主観的認知機能低下(SCD)→軽度認知障害(MCI)→アルツハイマー病」と分類されている。SCDは認知機能は正常だが本人が「忘れっぽい」などと感じている段階で、MCIの後半になると脳の萎縮が見られる。MCIの半分は5年以内にアルツハイマー病に移行するといわれており、新井医師は可能ならMCIの初期やSCD、さらに可能なら健康なうちから、アルツハイマー病にならないよう介入すべきだと考えている。

 ちなみに、脳の検査にはMRIやCTがあるが、脳の形態を見るものなので、脳が萎縮していないMCIの初期やSCDは見つけられない。MRIを用いる脳ドックはアルツハイマー病の早期発見に向いていない。直接的にアミロイドの沈着を発見できるのは、アミロイドPET検査だけだ。

 50代の女性は物忘れがひどく、脳に軽い萎縮があった。認知症専門病院で若年性アルツハイマー病と診断。セカンドオピニオンを求めて新井医師のクリニックを受診し、アミロイドPET検査を受けたところ、女性の脳にはアミロイドβの蓄積がなく、アルツハイマー病の病変が見つからなかった。問診や血液検査などから、その女性が長年毎晩飲んできたアルコールが脳の萎縮を招いており、物忘れはアルコール性の健忘症と診断。アルコールを控えて生活習慣を改めたところ、物忘れが減った。

「健脳ドック」では、アミロイドPETのほか、MRI、血液検査、認知機能検査も行う。

「認知症はアルツハイマー病が7割を占めますが、血管性認知症やレビー小体型認知症といったほかの原因のものもあり、さらに認知機能を低下させる認知症“以外”の病気もあります。MRIなどがこれらの発見に役立ちます」

 アミロイドβの蓄積が見られれば、認知症の発症に関係しているとエビデンスがあるもの(生活習慣や難聴など)を徹底除外する。脳の健康を保つための運動や食事なども指導する。試みは始まったばかりだが、かなりの効果が期待できるのではないかと、認知症専門医の注目を集めている。

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