感染症別 正しいクスリの使い方

【顔面神経麻痺】ヘルペスウイルスの再活性化による末梢性タイプが多い

佐々木彩夏さん
佐々木彩夏さん(C)日刊ゲンダイ

「顔面神経麻痺」は、顔面の筋肉を動かす神経に麻痺が生じる病気です。中枢性のものと末梢性のものに分けられ、中枢性のものは脳卒中などが原因となり発症します。

 一方、末梢性のものは主にヘルペスウイルスの再活性化が原因で、顔面神経麻痺の多くはこちらです。“ももクロ”の佐々木彩夏さんが今年7月に入院されたのも、右末梢性顔面神経麻痺と報道されました。ちなみに、私も昨年4月に左末梢性顔面神経麻痺を発症した経験があります。

 ウイルスの再活性化が原因になる末梢性の顔面神経麻痺としては、「ベル麻痺」と「ラムゼイ・ハント症候群」がよく知られています。いずれも、ある日突然、片方の顔面の動きが麻痺する病気です。ベル麻痺の年間発症率は、人口10万人あたり15~30人で性差はなく、ピークは40代との報告があります。

 麻痺が残ってしまうのが一番怖いケースですから、重症化や後遺症を防ぐためにも速やかに治療を開始する必要があります。治療は、神経の炎症や浮腫を取り除くための「経口ステロイド薬」(プレドニゾロン)と、ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」の投与がメインとなります。

 プレドニゾロンの投与は発症後3日以内に開始することが望ましいとされていますから、やはり早期治療が大切です。さらにプレドニゾロンは、今日は4錠、明日は3錠……といったように、日に日に薬を減量していく治療になるので、飲み間違いなどに注意が必要です。私が治療していたときも、お薬ケースを活用して正しい用量を服用するように気を付けました。

 また、治療で使われる抗ウイルス薬のバラシクロビルは、高齢者や腎機能が悪い方でまれに意識障害などの症状が表れることがあり、用量の調節や他剤への変更が必要となるケースもあります。

 顔面麻痺は、容姿の変化だけでなく、食事が口からあふれてしまう場合もあるなど、精神的なダメージが大きい病気です。麻痺を残さないためにも、おかしいと思ったら放置せず、すぐに医師の診察を受け、できる限り早めに治療を開始することが大事になります。

 次回は、顔面麻痺について、私の体験談を詳しくお話しします。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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