最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

訪問看護師は医師と遜色ないケアを行い心のサポーター役も担う

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 診療所が在宅医療を行う上でなくてはならないパートナーに、訪問看護ステーションに所属する訪問看護師さんがいます。どれほど重要な存在かを、分かりやすくオーケストラに例えれば、診療所が指揮者で、訪問看護師さんが演奏者。指揮者だけでは音楽が成り立たないように、診療所だけでは、在宅医療は成り立たないのです。

 みなさんの中には、在宅医療は医師が毎日訪問してくれないから不安と思う方もいるかもしれません。

 しかし、訪問看護師さんと診療所との連携があれば心配ありません。

 例えば医師が週2回の訪問をした場合、訪問看護師さんは週3回といった具合に、日を置かず患者のケアをします。さらにここにヘルパーさんなどが加われば、ほぼ毎日人の手が入ることになります。

 でも訪問看護師さんは看護師であって医師の代わりはできないのでは、と思うかもしれません。しかしそんなことはなく、医師と遜色ないケアを実施できます。

 ここで訪問看護師さんのできる作業をざっと挙げてみると、まずは「病状観察」に始まり、「バイタル(生体)測定」「バルーン管理」「清拭」「陰部洗浄」「足浴」「マッサージ」「更衣」「保湿」「療養指導」「内服管理」「疼痛コントロール」「緩和ケア」「酸素管理」「創傷処置」「吸引」「褥瘡予防」「人工呼吸器管理」「注射」「点滴管理」……。

 かなりの処置が可能なのです。

 さらに「看取りのケア」や「家族指導」といったメンタルのケアもでき、患者さんやご家族にとっての身近な心のサポーター役も担います。

 そんな訪問看護師さんの存在の大きさを改めて考えさせられた患者さんがいました。

 その方は、慢性心房細動、2型糖尿病、慢性腎臓病などを患う73歳の男性。69歳の奥さまが介護し、2世帯住宅の2階に44歳の長男夫婦が住んでいました。

 この方は春に在宅医療をスタートさせ、その年の冬に旅立たれたのですが、その間、当院では1週間に2回(水・土)訪問し、訪問看護は毎日介入するというシフト体制で進めていきました。

 当初からご本人、ご家族ともに、余命が長くないと覚悟していた様子で、再入院や救急外来受診の頻度を減らし、QOLを向上させるため、在宅医療の運びとなったのでした。

 訪問看護師さんが患者さんのむくんだ脚をマッサージしたり、体を拭いたりしていく中で、ご家族の信頼もいただくようになり、奥さまからこんな言葉が……。

「看護師さんが来てくれて、家で注射を打ってくれて、それだけでうれしいです」

 やがて患者さんと奥さまがプランターで家庭菜園を始めるほど明るい雰囲気のまま、最期まで療養を続けられました。そして患者さんの心肺停止を確認し報告したのも訪問看護師さんでした。

 そんなご家族の明るい心を育む力も、訪問看護師さんにはあるのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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