進化する糖尿病治療法

「運動習慣」がある人は感染症にかかっても重症化しにくい

写真はイメージ
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 コロナの感染者数が激減し、旅行や友人たちとの会食もしやすくなりました。しかもおいしい食材が出てくる秋冬。「コロナ太りが解消できていないのに、また太った」という話を最近よく耳にします。今年は、昨年できなかった忘年会、新年会を計画している人もいることでしょう。一層体重を増やさないように、「食べたら動く」「今日食べ過ぎたら、明日あさっては控える」といった意識を持っていただきたいと思います。

 観察研究ではありますが、こんな興味深い調査結果が報告されています。運動を習慣的に行っている人は、感染症に感染しても、重症化しにくいというものです。米国最大規模の病院兼保険機関であるカイザーパーマネンテが、2020年1月1日から10月21日にコロナに感染したと診断された4万8440人の成人を対象に調査を行いました。

 対象者は18年3月から20年3月に2回以上、運動頻度や運動強度ごとの平均時間などを電子健康記録に記録するカイザーパーマネンテの運動調査を受けていました。

 それによると、運動不足の群は活動群に比べて、コロナ感染による入院率は2倍以上、ICU収容率は1.73倍、死亡率は2.49倍上昇していました。

 さらに注目したいのは、運動不足群(年齢60歳以上または臓器移植を受けたことがある人を除く)は、がん、糖尿病、循環器疾患、腎臓病、高血圧などの基礎疾患がある人よりも死亡リスクが高かったという点です。また、運動不足の人よりは運動をしている中間群についても、コロナの重症化リスクは抑えられていました。つまり、少しでも体を動かしている人は、感染症で重症化しにくいという結果だったのです。運動による心肺機能の維持が重要と考えられます。

 また、サンパウロ州立大学は、コロナのパンデミックで外出制限が開始された数カ月で、世界中の身体活動量は33.5%低下し、座位行動は28.6%上昇したとの調査結果を出しています。

 加えて、運動ガイドラインで推奨された運動をしていない運動不足の人は40歳以上で57.3%、糖尿病のリスクのある人で57.7%に上り、コロナのパンデミックによる運動不足は糖尿病発症の9.6%、世界の全原因による死亡の12.5%を新たに引き起こすと推定しています。

 この欄でも繰り返し紹介しているように、テレビを見ているときなどにストレッチをする、仕事中30分や1時間ごとに立って少し歩き回る、ランチを少し遠めの店で取るなど、ちょっとしたことでいいので、体を動かそうという意識を持つべきです。その際、「やっていて楽しい」というところまでいかなくても、「つらい」と感じないものを選ぶといいでしょう。

 ある40代の会社員は、「体を動かす習慣を身につけなくては」と一念発起し、今年の元旦から早朝ウオーキングを始めました。ところが日の出が遅い冬ですから、ウオーキングを始める時間帯はまだ外が暗く、どうも気乗りがしない。

 そこで、ウオーキングの時間帯を昼に変更。外で昼食を取っていたのをやめ、前夜の残りのおかずとご飯を詰めたお弁当を会社に持参。昼休みに10分くらいでささっと食べ終えたら、会社周辺を30~40分ほど速足で歩くようにしました。

 会社がある場所はオフィス街ですが、普段歩かない道を歩くと穴場的な飲食店を見つけられたりして、早朝の薄暗い中を歩くよりも、断然楽しく感じたそうです。結果、1年近くたった今でも続いています。

「意外なことに、ウオーキングよりジョギングの方が自分には向いていた」と話す方もいました。それまで運動経験がなかった50代男性。理由は、ウオーキングを1時間するなら、30分のジョギングの方が時間を有効に使えていい、と感じるから。ウオーキングだと汗をかかないけど、ジョギングは汗をかくので、「やった感」があるのもポイントだそうです。最近は、出張先にもジョギングシューズを持参し、走っているとのこと。

「これは合わない」と思ったら、そこで運動をやめてしまうのではなく、別の体の動かし方を試してみる。自分に合ったものをぜひ見つけてください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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