感染症別 正しいクスリの使い方

【顔面神経麻痺】頭痛から数日後に左目が閉じられなくなり…

写真はイメージ
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 前回、末梢(まっしょう)性顔面神経麻痺(まひ)である「ベル麻痺」と「ラムゼイ・ハント症候群(ハント症候群)」について簡単に触れました。今回は私の体験を詳しくお話しします。

 昨年、私が発症したのはハント症候群でした。ベル麻痺の自然治癒が7割であるのに対し、ハント症候群の自然治癒は3割程度、麻痺が残存する可能性が高い点がベル麻痺と大きく異なります。

 また、回復途中から病的共同運動(閉眼時に口が動く、あるいは口を動かすと同時に目が閉じる)や、患側=障害のある側の拘縮(いわゆるヒョットコ顔)が著明になり、麻痺そのものに加えてこれらの後遺症と一生付き合わなければならなくなる可能性も高いとされています。顔面神経自体の変性は発症後も進行を続け、7~10日で完成し、この時点で麻痺の予後が決まるといわれています。

 私の場合、頭痛が最初の症状でした。その後、痛みが耳に限局して表れ、最初の頭痛から3日後くらいに耳から頬あたりの帯状疱疹(ほうしん)が認められたことで、抗ウイルス薬「バラシクロビル」の投与を開始。最初の頭痛から6日後くらいに左まぶたが閉じにくい症状が発生し、急速に顔面麻痺が進行したため、神経の炎症や浮腫を取り除くための経口ステロイド薬「プレドニゾロン」の投与をスタートしました。

 もともと耳の痛みから始まったのですが、この痛みに加えてキリで刺されるような痛み、髪の毛全体がピリピリするような痛み……と、3種類の痛みが続きました。

 麻痺は連日悪化傾向で、左顔面全体が垂れ下がって動きません。眉の位置も落ちていて、鏡で顔を見ては落ち込んでいました。左目は開きっぱなしで閉じられなくなり(兎眼=とがん)、洗顔では目に水が入るので痛みを感じます。そのため、入浴時は競泳用ゴーグルを装着していました。角膜が傷ついて失明してしまう危険があるので、夜寝る時はテープで留めて閉じさせていました。

「パ行」がしゃべりづらくて、笑えません。汁物も口からこぼれてしまいます。舌はしびれていて、ご飯を食べている時に噛んで出血したこともありました。お寿司やスプーンで食べることができるカレーライス(刺激物はダメなので辛くないもの)など、一口サイズのものが食べやすかった印象です。

 治療を受けながらそんな生活を続け、発症から2週間程度で症状の進行が止まっていることに気づきました。さらに発症から1カ月程度で左目が少し閉じられるようになり、2カ月で麻痺も改善していきました。私の場合は回復が早かったようです。

 その後、頭痛などの症状も治まり、今ではすっかり良くなりました。発症早期に治療を開始できたのが良かったのではないかと考えています。おかしいと思ったら放っておかず、すぐに医師の診断を受け、できる限り早めに治療を開始することが大切です。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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