「子どもが寝入りばなにいびきをかくのは問題ないですが、毎日朝までいびきをかくとなると、異常です。口呼吸になっている可能性が大いにあります」
こう話すのは、川崎医科大学耳鼻咽喉・頭頚部外科の原浩貴教授だ。
たかが口呼吸……と思うかもしれない。しかし、口呼吸は顔の成長を妨げる。
「鼻から息を吸い、息を吐くという鼻呼吸は、顔面の発育に欠かせません。成長期にある子どもの呼吸ルートが口になると、上顎骨、下顎骨といった顔面の骨格を形成する顔面骨が未発達になり、奥行きのない顔になってしまう。すると顎が小さくなり歯並びが悪くなりますし、就寝中に舌が気道に陥りやすくなって、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)のリスクも高めます」(原教授=以下同)
OSAは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりして、体が低酸素状態になる病気だ。
熟睡できないのでいつも睡眠不足状態で、日中に居眠りしたり、倦怠感、気分の落ち込み、勉強がはかどらない、イライラしたり切れやすくなるといった性格の変化などが見られる。
血圧が上昇し、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの発症にも関係する。成人のOSAは、無呼吸や低呼吸が1時間当たり5回以上繰り返される場合に診断されるが、子どものOSAは3~5回でも血圧が上昇するという論文もある。
■口呼吸になる原因は?
では、なぜ口呼吸になっているのか?
まず考えられるのは、アレルギー性鼻炎だ。鼻詰まり、鼻水、くしゃみなどの症状で鼻呼吸ができずに、口呼吸になっている。日本の疫学調査では、通年性のアレルギー性鼻炎は5~9歳の3割ほどいるとの結果。アレルギー性鼻炎は、それ自体が睡眠の質を低下させる。アレルギー性鼻炎の人は鼻詰まりと鼻水で就寝中の覚醒反応がアレルギー性鼻炎でない人の10倍に増え、入眠障害、中途覚醒、日中の眠気を訴えるという報告もある。
次に、OSAだ。
「成人のOSAの多くは肥満が引き金となりますが、子どもでは鼻の奥の咽頭扁桃(アデノイド)や口蓋扁桃の肥大でOSAが起こりやすい。また、アレルギー性鼻炎があると、OSAを発症しやすいことも分かっています」
アデノイドや口蓋扁桃の肥大と、アレルギー性鼻炎の両方で口呼吸になっている子どもも少なくない。これらでOSAになり、顔面の発育が妨げられて、OSAが成人以降も持続するケースも多い。
「口呼吸をしているかどうかは、いびきのほか、口元が緩んでいる、口が開いていることが参考になります。また寝返りを頻繁に打つ、早く寝ているのに朝スッキリ起きてこない、睡眠時間は十分なのに昼間に居眠りをよくする、などではOSAを合併している可能性をチェックできます。年齢が低いほどアレルギー性鼻炎の症状があっても自分から言い出せませんし、ましてや口呼吸をしているかは自覚できない。親が確認するしかありません」
口呼吸をしていそうなら、小児科ではなく、鼻も喉も診察できる耳鼻咽喉科へ。口呼吸の原因によって、治療は異なる。アレルギー性鼻炎なら基本的には薬物治療だ。アレルギー性鼻炎の根本的治療が期待できる舌下免疫療法が6歳以上から行えるので、場合によってはそれを検討する。
アデノイドや口蓋扁桃の肥大は手術でアデノイドなどを切除し、鼻の通りを良くする。
「肥大の度合いにもよりますが、必要であれば1歳でも手術を行います」
口呼吸は可能な限り早く発見し、早く対策を講じた方がいい。口呼吸が癖になってしまうと、アレルギー性鼻炎やアデノイド、口蓋扁桃の肥大の治療をしても、なかなか改善できなくなる。