病気を近づけない体のメンテナンス

血管<下>老化のメカニズムと改善法 ウオーキングでは負荷が軽すぎる人がいる

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 血管は、メタボや生活習慣病などがあると内皮細胞に炎症が起こり、慢性化するとカルシウムが沈着して血管内膜の石灰化が始まる。また、炎症によって血管内皮が傷つくと、そこから悪玉コレステロールが入り込み、コブ(プラーク)ができて動脈硬化が起こる。このように、血管は少しずつ弾力を失い硬くなっていく。これが血管の老化だ。

 この血管老化の現象も初期段階であれば、「食品に含まれる抗酸化物質の摂取」や「運動によるNO(一酸化窒素)の産生」によって、改善することが分かっている。運動と血管の健康には、どのような関係があるのか。「ズボラでもラクラク!血管・血流がよみがえって全部よくなる!」(三笠書房)の著者で、「芝浦スリーワンクリニック」(東京都港区)の板倉弘重名誉院長(認定臨床栄養指導医)が言う。「少し走ったりすると顔が赤くなったり、体が熱くなったりして、汗をかくなどして血流が良くなることを実感できると思います。血流が速くなると、血管内皮から血管拡張物質であるNOが分泌されて血管を広げてくれるからです。血管を広げる働きは、分泌されるNOの量に左右され、NOが不足すると血管は硬くなります。また、NOには抗酸化作用があり、血管内皮細胞の炎症を抑える働きもあります」

 そのため、定期的な運動で血管を拡張させれば、血管をしなやかで若々しく保つことができるというわけだ。NO分泌を高める運動で適しているのは、酸素を必要とする「有酸素運動」。ある程度の時間をかけて行う、あまり負荷をかけない中程度の運動になる。普段からまったく運動する機会がない人には、定番の「ウオーキング」が勧められる。下半身にたまった血液を押し上げる「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎを鍛えて、血流を良くする効果が期待できる。道具も不要で、思い立ったらすぐに始められる気軽さもある。

「しかし毎日、通勤に2時間以上かけている人や、若くて体力のある人にとっては、ウオーキングは軽すぎると思います。自分自身の体力に負荷がかかる程度の運動が『適切』と考えてください。体力に自信のある人なら、ウオーキングよりジョギングがいいでしょう。無理のない距離から始めて、うっすらと汗をかく程度が適切です。テニスや水泳などのスクールに参加するのもお勧めです」

 また、血管は動脈と静脈だけではない。人体には総計で約10万キロメートルもの血管が走っているが、その約95%は毛細血管になる。

 動脈と静脈の間をつなぐ直径5~20マイクロメートルの極細の血管のため、詰まったり切れたりするトラブルが起こりやすい。近年、その毛細血管が消えてしまう「ゴースト血管」が問題になっている。

 毛細血管の壁には無数の穴があり、そのすき間から栄養素や酸素が溶け込んだ血液成分がにじみ出し、体中の臓器や筋肉に入り込み、その周辺の細胞に血液を届けている。ところが、何らかの理由でこれらが漏れすぎてしまい、末端まで流れなくなることがある。

 また、血液を届ける先の筋肉や臓器に元気がなくなって、毛細血管が不要になってしまうケースもある。

「毛細血管が減っていくと、当然、血流が悪くなって血圧が高くなり、体調不良の原因になることがあります。毛細血管を増やすのに有効なのは『筋力トレーニング』です。筋肉が大きくなれば毛細血管が増え、血流が良くなって、血管も元気になります。有酸素運動が血管の老化防止に効果があると説明しましたが、無酸素運動の筋トレと有酸素運動をバランス良く行うことがベストなのです」

 毛細血管を手っ取り早く増やすために筋トレをするなら、大きな筋肉を鍛えるのがセオリーになる。板倉名誉院長が勧めるのは、太ももの裏側の筋肉の「ハムストリングス」と、お尻の筋肉の「大臀筋」を一緒に鍛えることができる「スクワット」だ。

■スロースクワットのやり方

①足を肩幅より少し広めに開き、腕を胸の前で交差(組む)する。

②5秒かけて、息を吸いながら、ゆっくりと膝を曲げる。膝がつま先の真上にくるまで曲げる。お尻を少しだけ突き出すと、太ももに力が入る。

③いったん息を吐き切り、5秒かけて息を吸いながら、ゆっくりと膝を伸ばす。膝が伸び切らない状態のまま、息を吐き切り、再び曲げる動作に入る。

 血管老化を防ぐ有酸素運動と無酸素運動の組み合わせ。少しずつでも実践してみよう。

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