コロナ禍で夜型人間が増加 無理な「早寝早起き」は寿命を縮める危険あり

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 コロナ禍での外出自粛やテレワークが長く続いた影響で、生活リズムが変化したという人は多いだろう。感染拡大がいったん落ち着いたことから、再びそれまでの生活パターンに戻そうとしているが、適応に苦労しているとの声も聞こえてくる。しかし、無理に「早寝早起き」すると、思わぬ病気を招くケースがあるという。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に聞いた。

 早稲田大学などの研究グループが実施したコロナ禍での生活リズムに関するアンケート調査によると、平日の就寝時間や起床時間が遅くなる「夜型」に変化している人が増えていた。

 昔から、健康のためには「早寝早起き」の朝型生活がよいとされてきた。それが、コロナ禍で「遅寝遅起き」の夜型が増えたため、健康に悪影響があるのではないかと思うかもしれない。しかし、むしろ早起きは健康リスクを高めるという研究報告がある。

 英オックスフォード大学のポール・ケリー博士が、世界中のあらゆる人たちの睡眠パターンを分析した結果、いつも朝7時以降に起きている人に比べ、6時前に起きている人は心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の発症リスクが最大で4割ほど高いことがわかったという。また、糖尿病やうつ病といったほかの病気についても発症リスクが2~3割高く、その多くが重篤化しやすいという結果だった。なぜ、早起きが病気につながるのか。

「われわれの体には、体内時計と呼ばれる『睡眠-覚醒』のサイクルが備わっています。体内時計は年齢によってズレが生じたり、人によって異なったりします。早寝早起きが苦にならない『朝型』の人、夜更かしは平気でも早起きが苦手という『夜型』の人がいるのも、備わっている体内時計に違いがあるからです。この体内時計のサイクルと実生活での行動サイクルにズレが生じると、健康に悪影響を及ぼします。つまり、夜型の人が無理に早起きを習慣化しようとすると、病気につながるリスクがアップしてしまうのです」

 英エクセター大学の研究によると、体内時計を制御する遺伝子は351個あることがわかっている。この時計遺伝子を持っている数は人によって異なり、最も多く持っている上位5%の人は、最も少ない下位5%の人と比べ、平均で25分早く眠っているという。 

 つまり、時計遺伝子が多い人は「朝型」、少ない人は「夜型」ということになる。

「朝型か夜型かは遺伝子で決まっているわけですから、あの手この手で努力しても、体内時計をしっかりズラして夜型から朝型にシフトするのは難しいといえます。ですから、夜型の人が毎日頑張って早起きしたり、早く起きるために体が睡眠を求めていない状態でも早く寝ようとしたりする行動を続けていると、無理が生じてしまう。その結果、睡眠の質が低下して慢性的な睡眠不足の状態になり、さまざまな病気を引き起こす危険があるのです」

■睡眠の質が低下して病気につながる

 睡眠不足になると、交感神経が優位になっている時間が長くなる。交感神経が優位になると、神経伝達物質のアドレナリンやストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが多量に分泌される。その結果、心臓、脳、血管に大きな負担がかかり、高血圧、心筋梗塞、脳卒中といった病気の発症リスクが上がる。また、内分泌系や免疫系にも支障を来し、糖尿病やうつ病などさまざまな病気が起こりやすくなることがわかっている。無理に早寝早起きしていると、寿命を縮める危険があるのだ。

「体内時計は加齢によって変化し、高齢になると自然と早寝早起きになってきます。しかし、それはあくまで老化によるもので、健康の証しではありません。現在、われわれは『ライフリズムナビ』というシステムを使って高齢者の睡眠データを解析しています。さまざまなセンサーによって、利用者の睡眠時間、睡眠レベル、離床時間、離床回数、心拍、呼吸といった生体情報を1秒ごとに24時間365日計測できます。このシステムを高齢者施設に設置し、6000~7000人の睡眠データを収集中です。まだデータ件数が十分ではない上、解析中の段階で統計学的に断言はできませんが、見えてきた傾向があります。体調が急変したり、不幸にも亡くなってしまったりした人では、本人やスタッフが体調悪化を認識する1カ月以上前から、徐々に普段よりも早寝早起きになっていたのです」

 無理な早寝早起きは健康にマイナスになる。とはいえ、現実的に遅寝遅起きが許されない人も多いだろう。

「夜型の人はテレワークや職場のフレックス制度を最大限活用するなどしてなるべく日々の始動を遅らせ、少しでも睡眠時間を増やすようにする。また、短時間でも睡眠の質を高めるため、就寝90分前にはスマホを見ない、朝には起床したら光を浴びる、朝食をしっかり食べるといった習慣を心がけましょう」

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