インフルエンザシーズンに「肺炎球菌ワクチン」が重要な理由

昨シーズンは激減したが…
昨シーズンは激減したが…(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザシーズンがやってきた。今シーズンの対策として何を押さえておくべきか? 慶応義塾大学医学部感染症学教室の長谷川直樹教授に聞いた。

 昨シーズン、インフルエンザ感染者数は激減。手洗い、マスク、フィジカルディスタンスなどの感染症対策が徹底されたことに加え、あるウイルスが流行するとほかのウイルスが流行しない「ウイルス干渉」の影響も指摘されている。

 では今シーズンは? 日本感染症学会は、昨シーズンのインフルエンザ感染者数激減で集団免疫が低下しているため、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行になる可能性があるとしている。

 また、英国政府も例年より大きな流行になる可能性があるとし、インフルエンザワクチン接種を呼びかけている。

 長谷川教授が言う。

「流行の程度は予測がつかないが、人流が戻ればインフルエンザも流行が大きくなると考えられます。ここでしっかり認識して欲しいのは、インフルエンザも問題ですが、インフルエンザは良くなった後も問題であるという点です。高齢者や基礎疾患のある方は肺炎を続発し、命に関わるリスクがあるのです」

 2018年、落語家の柳家小蝠さん(享年42)、三遊亭小円朝さん(同49)が肺炎で急逝。2人とも肺炎になる前にインフルエンザに感染していた。

「一般的にはインフルエンザ後、肺炎で亡くなるリスクが高いのは高齢者です。死因の第4位である肺炎で亡くなる方の97.8%を65歳以上が占めています。インフルエンザを発症するまでは元気に活動していた高齢者が、インフルエンザ感染後に肺炎を起こし、数日で急速に悪化して死に至るケースもあります」

 命が助かっても、負のスパイラルが生じる。肺炎で心身の機能が低下し、活力がなくなり寝たきりに。肺炎になると誤嚥性肺炎でまた肺炎。これを繰り返すうちに全身状態が悪くなり亡くなる。また、肺炎で入院すると、入院しなかった時と比べて認知症リスクが2~3倍高くなる。

「これらのリスクを少しでも低くするために、インフルエンザワクチンとともに接種をお勧めしたいのが、肺炎球菌ワクチンです」

■インフルエンザワクチンとの同時接種が可能

 肺炎の原因となる菌は複数種類あるが、その中でダントツに多いのが肺炎球菌だ。肺炎を起こすほかの菌にはワクチンがないのに対し、肺炎球菌だけ発症や重症化を抑えられるワクチンがある。つまり、肺炎球菌ワクチンの接種で、肺炎球菌による肺炎から身を守れる可能性が高くなる。

「インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンは同時接種が可能です。肺炎球菌ワクチンの接種対象に該当する人で、まだ接種していない人は、この機会に2つとも接種することを検討しては」

 実は肺炎球菌には100種類ほどの型がある。現在、肺炎球菌ワクチンには、人間が感染しやすい肺炎球菌のうち23種の型に対して免疫ができる「23価」と、13種に対して免疫ができる「13価」がある。

 23価は5年で効果が薄れるので、5年ごとの接種が望ましい。一方、13価は体に免疫の記憶ができるように作られたワクチンなので、一度接種すればOKとされる。

 23価は、23年度までに65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳になる人が定期接種の対象。その年齢以外の人や、5年経過後の再接種は任意接種。

 13価は、65歳以上では任意接種。23価と13価をどちらを先に打つか、どれくらいの期間を空けて打つかは、23価を接種済みかどうか、定期接種の対象かによって、異なる。

「まずはかかりつけ医と相談を。ただ、余裕があれば肺炎球菌への備えのために両方打つことをお勧めします」

 任意接種では、1万円前後の費用がかかるが(医療機関により異なる)、命には代えられない。

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