役に立つオモシロ医学論文

白内障の手術で認知症のリスクが3割減 効果は5年以上続く

生活の質の改善は大切
生活の質の改善は大切

 高齢化が進む先進諸国では、認知症を患う人の数も増加しています。しかし、認知機能の改善に効果的な治療法は存在しません。そのため近年では、認知症を治療することよりも予防することに関心が集まっています。

 高齢者ではまた、視力や聴力の低下など感覚障害を患っている方も少なくありません。特に白内障は、加齢とともに目の中の水晶体(カメラのレンズのようなもの)が白く濁り、視力が大きく低下する病気です。そのような中、白内障の手術と認知症の関連を検討した研究論文が、米国医師会の内科専門誌に2021年12月6日付で掲載されました。

 この研究では、白内障の診断を受けている65歳以上の米国人3038人(白内障診断時の平均年齢74.4歳、女性59%)が対象となりました。研究参加者は白内障の手術をしていたグループと、手術をしていないグループに分けられ、認知症の発症リスクが比較されています。

 平均で7.8年にわたる追跡調査の結果、認知症の発症は白内障の手術をしていないグループと比較して、手術をしていたグループで29%、統計学的にも有意に低下しました。なお、この効果は5年以上にわたり持続していました。

 手術をしていた人は、手術をしていない人に比べて健康状態が良好であり、認知機能も高い可能性を指摘できます。しかし、研究参加者のうち緑内障(眼圧が高くなり、視野が狭くなる目の病気)の手術をしていた人と、手術をしていない人の比較では、認知症のリスクに違いがみられませんでした。論文著者らは「白内障の手術が、長きにわたり認知症の発症リスク低下と関連していることを踏まえれば、患者やその家族の生活の質の改善はかなり大きい可能性がある」と結論しています。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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