日本のエイズ患者は見えなくなった コロナ禍で保健所検査が51.5%減

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 コロナ禍で懸念されている性感染症は急増している梅毒だけではない。いまも世界中で3000万人以上が感染し、累計4000万人超が死亡したAIDS(エイズ=後天性免疫不全症候群)も危険な状態だという。どういうことか。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(KADOKAWA)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

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「エイズとは、原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が免疫細胞に感染することで生じる、さまざまな病気の総称です。1983年にフランスのパスツール研究所で初めて報告されました。感染から自覚症状のない時期が数年から10年以上続き、23の指標となる代表的な病気を発症した時点で診断されます」

 HIVが体内に侵入すると、免疫の中心となっているヘルパーTリンパ球(CD4細胞)と呼ばれる白血球などに感染し、体を病気から守る免疫組織の働きを弱める。その結果、本来なら自分の免疫で抑え込むことができる病気を発症する。

 日本での指標疾患で多いのは、以前はカリニ肺炎と呼ばれていた「ニューモシスティス肺炎」、「カンジダ症」(食道、気管、気管支、肺)、「サイトメガロウイルス感染症」「HIV消耗性症候群(全身衰弱)」などだ。

 1985年以降、厚労省は「国内のエイズ発生動向」でエイズ発症前の「HIV感染者」と「エイズ患者」に分けて新規患者数を報告している。

 たとえば、2018年に報告された新規エイズ患者は377人、新規HIV感染者は940人の合計1317人だった。1日当たり約4人が新たに見つかっている計算で、毎日1人は検査と同時に「いきなりエイズ」を告げられていることになる。これは、10年以上、自分がHIV感染者だと知らずに生活している人がいかに多いか、ということだ。

「日本では男性同性愛者の患者が多く、そうした人たちの病気と思われがちですが、世界的にはHIV感染者の半数は女性で、男女間での感染が主流です。梅毒やクラミジアなどの性感染症になっている人はHIVに感染しやすく、逆にHIVの人はその他の性感染症になりやすい。いまはセックスとは無縁であっても若い頃に遊んだという人も、男女を問わずそのリスクがあるのに多くは気づいていないのです」

■新たなHIV予防薬の効果は?

 新規エイズ患者は、13年の484人をピークに下落傾向にある。新規HIV感染者1106人を含めたこの年の数は1590人だが、19年には新規エイズ患者333人、新規HIV感染者903人の計1236人となった。

 では、新型コロナに揺れた20年はどうか。新規エイズ患者345人、新規HIV感染者750人、計1095人とやはり減っている。

 それなのに何が問題なのか?

「その数字は、それまでエイズの早期発見に寄与してきた保健所が新型コロナによる業務逼迫によってHIV検査の受け付けの縮小・中止に追い込まれたうえでのものだからです。HIV検査は20年には6万8998件と前年の14万2260件の51.5%減となりました。にもかかわらず、保健所などで発見された新規HIV感染者290人で、19年の437人より約34%しか減っていません。逆に、いきなりエイズ発症を宣告される新規エイズ患者は345人と前年を上回った。つまり、新型コロナが流行して以降、HIV感染に気づかずに性交渉に励む人が増えたと考えられ、日本のHIV感染リスクは高まっているのです」

 そもそもHIVの感染拡大防止には早期診断・早期治療が重要で、1987年から始まった保健所での無料・匿名検査が力になってきた。

 実際、HIV感染者の半分は保健所で見つけられ、うち20%は感染後、半年以内の早期感染者だった。

「いまはHIVに感染していても早期に治療すれば95%以上はエイズの発症を抑えられ、他人への感染も予防できます。また、たとえエイズを発症していても治療を続ければ9割の人は社会復帰が可能で、根治は無理でも糖尿病や高血圧のように治療で管理できます」

 だからこそ検査は重要なのだ。もちろん、できればHIVに感染したくはない。

 何か方法はないのか?

「HIVに感染したかもしれないと思ったら、セックス後72時間以内に抗HIV薬の服用を開始し、28日間毎日1~2回飲む『PEP』(ペップ=暴露後予防内服)と呼ばれる予防策があります。WHO(世界保健機関)の調査では感染リスクを80%以上低減できるとされています。また、セックスをする前から2種類の抗HIV薬が入っている合剤を飲む『PrEP』(プレップ=暴露前予防内服)と呼ばれる予防法があり、9割程度の効果があるとされています」

 いずれも始める前には性感染症専門医に相談し、定期検査が必要となる。

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