「片頭痛」はなぜ薬を飲んでも良くならないのか? 専門医に聞いた

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 頭痛には、検査をしても異常が見つからない一次性頭痛と、くも膜下出血や脳腫瘍などの症状として起こる二次性頭痛がある。

 二次性頭痛は命に関わることもあるが、一次性頭痛はそうではない。しかし、QOL(生活の質)を著しく下げ、社会的損失を招く。

 この一次性頭痛の代表的なものが、推定患者数約1000万人の片頭痛だ。

 日本頭痛学会専門医で仙台頭痛脳神経クリニック院長の松森保彦医師が言う。

「患者さんが困っている慢性的な頭痛は、大半が片頭痛。私の外来でも、頭痛が主訴の患者さんの約8割が片頭痛です」

 片頭痛は、「ズキズキ」「ガンガン」といった脈打つような強い痛みが引き起こされる。

 体を動かすと痛みが増悪し、寝込んだり、吐き気や嘔吐などを伴うこともある。

 発生メカニズムとして有力視されているのは「三叉神経血管説」。脳に何らかの刺激が加わり、三叉神経の末端からCGRPという神経ペプチドの一種が放出され血管が拡張し、強い痛みが引き起こされる。CGRPは三叉神経周囲に炎症も起こし、疼痛シグナルとして大脳皮質で「痛み」として知覚される。

「頭痛専門医は一般的に『国際頭痛分類』の診断基準にのっとって片頭痛を診断しますが、専門医以外になると、必ずしもそうではないのが現状です」

 よくあるのが、片頭痛の過小評価だ。

 受診時には片頭痛の症状のピークを過ぎているため、患者さんがつらさを訴えても、「大した頭痛じゃない」「ある程度薬が効いているなら、それでいいでしょ」となってしまう。

 激しい頭痛が生じている段階で受診しても、画像診断でくも膜下出血や脳腫瘍といった二次性頭痛が否定されると、「ただの頭痛でよかった」となり、やはり過小評価につながりがちだ。

■誤診されているケースも

 緊張型頭痛と間違えられて診断されることも。

 緊張型頭痛は、長時間のパソコン作業やデスクワークで、首や肩の筋肉が緊張して血流不良で起こる。

「肩凝りがあると伝えると、『肩凝り=緊張型頭痛』と診断する医師が、専門医以外では多い。実は片頭痛だったり、片頭痛と緊張型頭痛を合併している患者さんはたくさんいます」

 緊張型頭痛は、運動、ストレッチ、入浴で血行が良くなると改善するが、片頭痛では逆に悪化することもある。

 片頭痛と正しく診断されない弊害はQOL低下や社会的損失を招くだけではない。

「痛みを鎮めるために頭痛薬を頻繁に服用していると、薬剤の使用過多による薬物乱用頭痛が生じます。市販薬だけではなく、医師から処方された薬でも起こります」

 薬物乱用頭痛は、脳が痛みに敏感になり、通常は感じないレベルの刺激でも強い痛みとして感じるようになった状態。薬が効かなくなり、効いても短時間しか効果が持続しない。

 月に10日以上、頭痛薬を服用しているとリスクが高くなる。

 日常生活に影響を与える頭痛があるなら、片頭痛を疑い、頭痛専門医がいる医療機関を受診すべきだ。

 片頭痛の治療薬は、鎮痛薬、片頭痛専用薬、頭痛を予防する薬などさまざまな種類があり、頭痛の程度や頻度に応じた処方がなされる。頭痛がいつ出たか、どのように出たかを記す頭痛ダイアリーなどをチェックし、頭痛の出やすいタイミングに応じた薬の飲み方の指導も専門医は行う。

「今年4月と8月に、片頭痛の原因物質に直接作用する新しい予防薬も発売された。従来薬とはメカニズムが違い、従来薬が効かなかった頭痛患者さんにも、かなりの効果が期待できます。どの薬を服用しても良くならない患者さんには、この新薬を使う手もあります」

 片頭痛は、専門医とともに向き合えばコントロールできない病気ではない。日本頭痛学会のホームページに、同会の認定頭痛専門医一覧が掲載されている。

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