独白 愉快な“病人”たち

オシメをして舞台に…俳優・江藤博利さんが膀胱がんとの闘病を振り返る

江藤博利さん
江藤博利さん(C)日刊ゲンダイ
江藤博利さん(63歳/俳優・歌手)=膀胱がん

 2012年10月、当時「やっちゃいました劇団」という劇団の座長を務めていて、本番を3日後に控えて稽古をしていた夜のことでした。8時ごろにトイレで用を足そうとしたら、オシッコではなく真っ赤な血が出てきたんです。それまで不調や違和感は一切なかったのでびっくりしました。

 真っ先に思ったのは3日後の舞台のこと。「どうしよう」と半分パニックになりました。でも、その場では誰にも何も言わずに平静を装い、稽古が終わったその足ですぐに病院に行きました。

 緊急で診ていただいたのがたまたま泌尿器科の先生だったので、すぐにいろいろ検査をしてくれました。結果は翌日にならないとわからないとしながらも、「尿管結石でもない。エイズでもない。今のところ考えられるのは膀胱がんです」と言われました。

 翌朝、稽古前に結果を聞きに行くと、やはり「膀胱がんで手術が必要」とのことでした。

 舞台公演は3日間だったので、入院はそれが終わってからにするとして、しばらくは誰にも言わず稽古をし、舞台にはオシメをして立ちました。自然に血が出てきちゃうからです。出血は少量でしたが、もし舞台中に大量出血したらシャレになりませんから用心のためにね。

 無事に千秋楽を終えたその夜に、初めてみんなに事情を話して翌日から入院する旨を告げたので、全員が驚いていました。ただ、「見舞いには来るな」と言いましたよ。気を使わせるのが嫌だったんです。劇団員はお金がないですから(笑い)。

 幸い初期の膀胱がんだったので、1時間半ぐらいの手術と1週間の入院で済みました。手術も部分麻酔で尿道から内視鏡を入れて腫瘍を切るだけ。でも、退院後の検診で腫瘍が取り切れていないことを告げられ、1カ月後に再手術となりました。

 説明によると1回目は部分麻酔だったので無意識に脚の神経がピクピク動いてしまい、誤って神経を切る可能性があったため取り切れなかったとのこと。そんなわけで2回目は全身麻酔でした。

 2回分の手術費がかかったことは理不尽だと思いましたが、保険に入っていたので結果オーライでした。若い頃は保険なんていらないと思うタイプでしたけど、結婚したときにたぶん加入したんでしょうね(笑い)。助かりましたよ。だから、若い人も保険には入ったほうがいいと思います。

 術後の痛みなどは一切なく、食欲も旺盛でした。食事制限はまったくなかったんですけど、病院の食事は味気なくて、自分にとっては物足りなかった。カミさんが大量に持ってきてくれるふりかけやキムチなどの「ごはんのお供」にどれだけ助けられたことか。病室でもやることがなくて、持ってきてもらったビデオをひたすら見ては、当時は病院にもあった喫煙所へ行ってたばこを吸っていました。

 お酒やたばこはやらないほうがいいとよく言われますが、やめることでストレスが増えることの弊害もあると思うんですよね。「やめたほうがいい」と言われれば言われるほど、「イヤ」と言ってしまうあまのじゃくな性格もあって、自分は相変わらずたばこも吸うし、お酒も飲みます。でも、不思議なことに自宅では飲まないんですよ。飲める口のカミさんに誘われても、家ではコーヒーばかり。たぶん、お酒を飲むお店の雰囲気や、いろんな人とガヤガヤ話しながら飲むのが好きなんでしょうね。

■病気をしてからは健診を欠かさずプールにも通っている

 術後は、半年ごとの検診が5年間続きました。今でも1年に1回は受診しています。区の健康診断も真面目に受けていますよ。膀胱がんになる前は行ったことがなかったですけどね。おかげさまで、肺がんの検査も胃がんの検査も大腸も前立腺も今のところ異常なしです。

 膀胱がんと聞いたときには、ダジャレじゃないけどガーンとなって、頭は真っ白。昭和の人間ですから、(膀胱がんで亡くなった)松田優作さんが頭に浮かんで、自分も死ぬんだと思いました。

 あの頃は本当にお金がなくてね。劇団なんて儲かりませんし、芸能の仕事もなくなってストレスがたまっていましたから、それがドカンと出たんでしょうね。家族にはだいぶ迷惑をかけたなと反省しています。

 今は本当に元気です。新型コロナにもかかっていません。緊急事態宣言が解けてから劇場を借りるためにワクチンを打ちましたが、10月までは接種もしていませんでした。仕事もすこぶる順調で、実は来年は映画にも出演します。くしくも主役に病名を告げる医者の役です(笑い)。

 この年齢になってくると、舞台でもなんでも体力勝負。病気をしたこともあって5年前からプールに行くようになりました。実は60歳以上は区のプールが2時間無料なので、時間があれば30分でも泳いで、そこでお風呂も済ませちゃう。今日もこれから行ってきます。

(聞き手=松永詠美子)

▽江藤博利(えとう・ひろとし) 1958年、宮崎県生まれ。「笑点」(日本テレビ系)の子供大喜利で注目され、74年に「ずうとるび」として歌手デビュー。「みかん色の恋」のヒットもあって多方面で活躍したが、82年に解散した。2003年に劇団を立ち上げて活動を続ける中、昨年にはずうとるびが再結成され、新曲も発表した。22年1月7~10日、自身プロデュースの舞台「昭和歌謡コメディ vol.15」を東京・築地本願寺ブディストホールで公演予定。

■本コラム待望の書籍化!「愉快な病人たち」(講談社 税込み1540円)好評発売中!

関連記事