コレステロール降下薬「スタチン」が新型コロナの死亡者減らす 海外で研究報告

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 コレステロールを下げる「スタチン」という薬がある。1970年代に日本の遠藤章氏が発見した世界初の本格的なコレステロール降下薬として知られ、世界中で最も使われている薬のひとつといわれる。そのスタチンが新型コロナウイルス感染症の死亡率を下げるという報告がある。東邦大学名誉教授の東丸貴信氏に聞いた。

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 今年10月、学術誌「PLoS Medicine」に、スタチンの使用は新型コロナウイルス感染症の死亡率低下に関連しているという研究結果が報告された。

 スウェーデンのカロリンスカ研究所のチームが、同国の全国処方登録データを基にして45歳以上のストックホルムの全住民(96万3876人)の中から、新型コロナウイルスのパンデミック前(2019年3月1日~2020年2月29日)にスタチンを新規処方された人を抽出(16万9642人)し、2020年3月1日から11月11日まで追跡。期間中に新型コロナウイルス感染症で死亡した2545人のうち、スタチンを使っていた人は765人、使っていなかった人は1780人で、スタチン使用者は新型コロナで死亡するリスクが12%低かった。

 研究者は「スタチン治療は新型コロナウイルス感染症による死亡と弱い逆相関を示した」と結論付けている。

 冒頭でも触れたように、スタチンは血液中のLDLコレステロール(悪玉)を低下させる薬で、脂質異常症の治療、脳梗塞や心筋梗塞などを予防するために使われている。なぜ、新型コロナによる死亡を低下させるのか。

「はっきりした機序はわかっていませんが、理論的にはスタチンが持つ抗炎症作用、抗酸化作用、血管内皮機能を保護する作用が関係していると考えられています」

 スタチンは、肝臓でコレステロールが合成される過程で必要なHMG-CoA還元酵素の働きを阻害し、コレステロールの合成を抑えて血液中のコレステロールを減らす。コレステロールの合成過程で産生される中間代謝物は、炎症性サイトカインや酸化ストレスなどに関わっているいくつかの低分子量Gタンパク質を活性化させる。

 スタチンはコレステロールの合成を阻害することでそれらの活性を抑えるため、炎症や酸化ストレスを抑制する作用があるのだ。

■本格的な研究はまだ数が少ない

 また、スタチンは内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を活性化させ、血管をしなやかにする血管拡張物質の一酸化窒素(NO)の産生を増加させる。これによって動脈硬化を防いだり、血管内皮に対して保護的に働く。さらに、交感神経の活性化を抑えて血管収縮などに関係するAT1受容体の発現レベルを低下させたり、アンジオテンシンⅡの作用を弱めるので、動脈硬化や血管収縮、血栓形成を予防する効果もある。

「新型コロナウイルス感染症の本態は、炎症性の血管内皮障害であることが分かっています。ウイルス感染などによって血管内皮に炎症や免疫反応が生じると酸化ストレスも増加します。それで血管内皮が傷ついたり、その機能が低下するのです。それが、さまざまな血管や臓器に広がることで、心臓、肺、脳、腎臓、消化管といった全身の臓器障害が起こったり、血栓症が引き起こされます。先ほど触れたように、スタチンには炎症や酸化ストレスを抑制し、血管内皮を保護する作用があります。今回の研究でスタチン使用者の新型コロナによる死亡が低下していたのは、それが一因だと考えられます」

 かつて心不全に対するスタチンの保護作用の研究に携わっていた東丸氏によると、スタチンを使った患者の血管内を血管内視鏡で見ると、血管内にできたプラークの色が、黄色から白っぽく変わるという。

「血液中のLDLコレステロールが多いと、血管の内膜にプラークができて内膜が肥大化していき、破れると血栓の生成につながります。黄色っぽいプラークは破れるリスクが高く、状態が安定化しているプラークは白っぽい色をしています。スタチンには、それくらい血管内の状態を改善する効果があるといえます」

 血管の病気ともいえる新型コロナウイルス感染症に対しても、やはり何らかの効果が期待できるといえそうだ。

「ただし、本格的な研究はまだ数が少ないため、今の段階では新型コロナの治療にスタチンが確かに有効だとはいえません。スタチンはあくまでも、脂質異常症などコレステロールを低下させる必要がある病気に対して適応される薬ですから、さらなる大規模研究が必要です。また、スタチンには頻度は少ないとはいえ横紋筋融解症や腎障害などの重篤な副作用が出るケースがあるので、定期的に検査をしてモニターしながら服用しなければなりません。自己判断で使用するのはリスクがあります」

 今後の研究に期待したい。

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