進化する糖尿病治療法

ストロング系チューハイ「2本目」に手を伸ばす前に考えてほしいこと

甘い口当たりと清涼感でつい飲み過ぎてしまう
甘い口当たりと清涼感でつい飲み過ぎてしまう

 ストロング系チューハイは、アルコールを摂取する方なら大抵の方がご存じの通り、アルコール度数が9~12%と非常に高く、ジュースのような甘い口当たりと清涼感で、グイグイ飲めるお酒です。

 ビールやアルコール飲料が苦手な人でも飲みやすく、プライベートブランドであれば350ミリ缶で100円以下のものもあるなど値段も安い。コンビニでは、棚に並ぶ缶チューハイのほとんどがストロング系というところもあります。

 このストロング系チューハイ、たまの休日に1本たしなむ程度なら、医師としてお勧めはできないものの、そういった楽しみ方があることを理解できます。

 問題なのは、その飲みやすさから、ビールを飲むような感覚で、短時間に多くの量を飲んでしまう点です。

 アルコール度数9%のストロング系チューハイの場合、350ミリリットル缶1本の純アルコール量は25.2グラム。アルコール度数15%の日本酒1合の純アルコール量は22グラムですので、ストロング缶チューハイ350ミリリットル缶と日本酒1合の純アルコール量が同等ということです。

 ストロング系缶チューハイを4~5本飲めば、日本酒を4~5合飲んでいるのと同じこと。人にもよるかと思いますが、ストロング系缶チューハイ4~5本を飲み干すのと、日本酒4~5合飲むのにかかる時間を比較すると、後者の方がずいぶんゆっくりなのではないでしょうか? また、後者の方が「今日は飲み過ぎた」という認識が強いのではないでしょうか?

 短時間にかなりの純アルコール量を摂取すると、血中のアルコール濃度が急激に上がり、気が付いたら泥酔状態になってしまいます。「糖類ゼロ」「プリン体ゼロ」をうたっているストロングゼロは日本酒やビール、ワインなどと比べて一見ヘルシーに思えてしまいますが、必ずしもそうとは言えないのです。

 また「糖類ゼロ」は、糖類が0グラムというわけではありません。炭水化物の中に糖質が含まれ、糖質の中に糖類が含まれます。糖質は炭水化物から食物繊維が抜かれたもので、その中で体内への吸収の際に消化の必要がない砂糖、果糖、ブドウ糖などが糖類になります。

 糖類は急激に血糖値を上げるので、糖尿病の人は「糖類ゼロ」という言葉が魅力的に思えますが、食品表示基準では、飲料100ミリリットル当たり0.5グラム以下であれば「ゼロ」「ノン」「無」「レス」といった「含まない」という表示ができます。わずかでも含んでいれば、何本も飲めば摂取量も増えていきます。

 アルコール依存症に詳しい精神科医などの話を聞くと、最近、ストロング系チューハイによるアルコール依存症も増えているそうです。

 それを受けて、飲料メーカーの「オリオンビール」は、2019年5月に発売を開始したストロング系チューハイ「WATTA STRONG」を、19年末には商品群から外しました。

 代表取締役のインタビュー記事を拝見すると、アルコール依存症の方をサポートしている団体や当事者に現状を伺う機会があり、「コンビニで買った高アルコールチューハイを1~2本飲み、酔っぱらって倒れるように寝る。そのような習慣を持つアルコール依存症の人はすごく多い」といった声を耳にし、販売をやめることを決断したそうです。同社のストロング系チューハイは、チューハイの売り上げの4割を占めていた商品で、またストロング系チューハイの販売中止は業界初だったとのこと。

 メーカーがそのように動いたのはなぜか? ストロング系チューハイの2本目に手を伸ばす前に、ぜひ考えてみてほしいです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事