拒食症・過食症の根治につながるか…注目の調査結果が発表

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 摂食障害に関する日米での共同研究が、東京歯科大学の宗未来准教授やコロンビア大学のキャスリーン・パイク教授らの共著として発表され、精神医学領域では最も権威ある日本精神神経学会の優秀発表賞に表彰されるなど大きな注目を集めている。発表者で精神科医の宗准教授に話を聞いた。

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 摂食障害は、ダイエットのコントロールが効かなくなる「神経性やせ症(拒食症)」や過食症状に苦しむ「神経性過食症(過食症)」に大別され、QOLを大きく毀損する精神疾患だ。

「標準的な通院治療でも特に低体重者には効果がないなど依然、状況は深刻です。治療開発の前提となる原因特定についても、欧米の知見は蓄積されつつあるものの、日本人の国民性や文化差を無視した欧米式の“直輸入”は危険であり、日本人の原因解明のため、今回の研究が行われました」

 これまでの日本の摂食障害研究の大半は、ある一時点についての実態調査を行う「横断研究」。現状は分かるが、過去の発症原因の探索には限界があった。今回の研究は、発症前の患者の心理的特徴、人間関係、環境面など多彩な要因を疫学的方法論に基づきインタビューし、分析する「症例対照研究」という従来より踏み込んだ手法が用いられた。使用された調査票は摂食障害研究の第一人者であるオックスフォード大学・フェアバーン教授が作成したもの。これは、世界中の先行研究から得られた摂食障害発症の原因候補が集約され、系統的な情報収集を可能としたものだ。

■日本では親子関係が重要なリスク因子

 対象となった摂食障害患者は日本人が96人、米国人は137人。

「結果は、日本人では完璧主義な性格に加え、家族の不仲、親からの高すぎる期待、親の不在、親の精神状態といったものが重要なリスク因子であることが示されました。一方で、米国では重要なリスク因子だった虐待や家族の肥満は、日本では示されず、認識の違いや肥満人口の差とも解釈されました」

 これを受け、宗准教授が強調するのが、摂食障害治療における親子関係の重要性だ。

「拒食症は単なる食欲不振ではなく、過食症もただの食い道楽ではありません。『飢餓でも空腹感を感じられない』『味覚の毀損から、いつまでも満腹になれず食行動が止まらない』といった身体感覚の異常(失体感)が背後の病理として存在します。そしてそれは、幼い頃から繊細な性格のために周囲に気持ちを理解してもらえない中で、大切な『本音感情』を感じる力が低下し、そのしわ寄せでどうでもいいことには過敏になってしまっているところに原因があります。これを理解しなければ摂食障害の根治には至りません」

 摂食障害の標準治療で日本でも健康保険が適用される「認知行動療法」は軽症者には効果的だが、BMI17.5未満の低体重患者には効果が期待できないなど摂食障害患者のニーズを満たしているとは言えない。

 宗准教授は、摂食障害の専門家の多くがタブーにしたがる親子の関係改善を中心とした対人関係を治療対象とすることの重要性を説く。長期的予後も、その方が良いという報告もされている。

 現在、宗准教授らはBMI15以下の摂食障害患者に対し、同様の調査を継続。女性患者の参加者を募集している。今回発表の研究で用いた調査票による1時間程度のインタビューを受けることで見逃していた自身の発症原因や回復を妨げている要因を振り返る機会にもできる。実際、参加者からは、「回復に向けて大きな気づきが得られた」「気持ちが楽になれた」といった感想も得られているとのこと。

 拒食症患者と母親の両者参加が条件となるが、これまでとは異なった角度から自身の病気を見つめ直すことで、回復への打開策を見つけられるかもしれない。

 参加希望者は、family4an@gmail.com  担当小杉まで。謝金は最大で、拒食症患者1万5千円、母親1万円となる。

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