感染症別 正しいクスリの使い方

【ノロウイルス】ワクチンも治療薬もないため対症療法が行われる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 食中毒の年間患者数の約半分は「ノロウイルス」によるものです。うち約7割は11~2月に発生していて、この時季の感染性胃腸炎の集団発生例の多くはノロウイルスによると考えられます。

 感染経路としては、ウイルスに汚染されている食品(牡蠣など)を摂取することで感染する(経口感染)のほか、感染者の嘔吐物や便などに接触し、ウイルスが付着した手で口に触れることで感染する(接触感染)などがあります。

 ノロウイルスの潜伏期間は1~2日で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、発熱、腹痛です。一般的には2~3日で回復し、経過は比較的良いのですが、抵抗力の衰えた高齢者では脱水症状や体力の消耗により重篤化し、時には死に至る場合もあります。

 ノロウイルスの感染力は強く、症状が治まっても1~2週間、まれに1カ月にわたり便中にウイルスを排出し続けるため、接触によって2次感染が広がり、学校や保育園、幼稚園のほかに高齢者施設でも集団感染が起こるケースもあります。嘔吐物からもうつることがあるため、2次感染を起こさないような予防対策を取ることが重要です。また、感染しても発症しない場合(不顕性感染)もあり、このような感染者からの感染拡大に注意が必要です。

 現時点でノロウイルスを事前に予防できるようなワクチンはありません。また、ノロウイルスには直接有効な抗ウイルス薬もありません。そのため、基本的には症状に応じた対症療法を行います。特に、下痢、嘔吐に伴って脱水症状を起こすケースが多く、子供や高齢者の脱水症は致命的になる場合もあるため、早めに医療機関を受診することも大切です。脱水症状がひどい場合には、点滴治療を行うこともあります。

 次回はノロウイルス感染症における感染予防対策についてお話しします。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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