最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

90歳代の3兄妹が最期を自宅で迎えるためにやったこと

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を受けられる患者さんや、そのご家族にはさまざまな事情を抱えている方がいます。私たちは常にその各事情に合わせ、テーラーメードな医療を提供するように努めています。

 たとえどんな環境や条件であっても、「患者さんの生活を丸ごと支える」という思いを持って、その方にとって最善な在宅医療を実施することが当院の強み(コアコンピタンス)と心得ています。

 今から6年前のことです。ある診療所に勤務していた時で、地域包括支援センターから、高齢者が体調不良を訴えたので対応してほしいという要請を受けてうかがったことがありました。

 神田川沿いにある小さなお家に住む、90歳代の3兄妹のご家庭で、ご兄妹のうち、熱中症で体調不良を訴えたお兄さんが患者さんでした。迎えていただいた次男のお話によると、当初は軽い夏風邪だったのが、食欲が減退し、あっという間に熱中症になったとのこと。3人はこれまで、さまざまな人生の苦難を力を合わせ乗り越えてきたが、こうしてこれまで生きてこられたのも3人が協力してきたからで、この住み慣れた自宅に家族と一緒に住み続けられることがありがたいとおっしゃっていました。

 その日は、まずは点滴を始めました。そして、その後も往診を重ね治療を施していくうち、採血データや症状は回復していくのですが、それでも食欲は戻りません。このように高齢者の方が体調を崩してから回復が難しいケースは珍しくはありません。選択肢として入院もお勧めしましたが、やはり最終的にはご自宅がよいとなり、在宅医療を続けることとなりました。

 その後、患者さんは大好きなスイカや、かき氷を食べて暑い夏を過ごされ、しかし徐々に衰弱し、冬の季節を迎える前に、弟さん、妹さんに見守られながら旅立っていかれました。

 そしてその2年後、今度は次男の方の元気がなくなってきたとのことで、再び在宅医療を開始しました。

 弟さんの場合は認知症のほか、たくさんのお薬を飲まれていたので、まずはその内服薬を必要度の高いものだけを飲んでいただくように整理しました。

 そのせいか、散歩も行けるほどに少し元気を取り戻されましたが、それでも衰弱は徐々に進行し、やがてはトイレに行くのもままならないといった状態となりました。

 そんなお兄さんを、妹さんも足が不自由な中、一生懸命に介護をされていました。そして私たちは2人の邪魔をしないよう、つかず離れず見守りながら療養を支えていきましたが、その3カ月後には、お兄さんの後を追うように旅立たれていかれました。

 そしてそれから数年後には、大好きなお兄さんたちを見送った妹さんも、ご兄妹の思い出の残る自宅から静かに旅立たれていかれました。

 そんな最期の日まで自宅で生活したいという、ささやかな思いにも向き合い見守るのも、在宅医療だと考えます。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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