パンデミックをきっかけに、多くの人が職に戻らない、またはこれまでの仕事を辞める──。そんなアメリカの歴史始まって以来の「大辞職時代」が止まりません。コロナ感染の危険やストレスなどで、命や健康のリスクを冒してまで働く意味があるのだろうかと人々が自問自答する状況に、さらなるスピンを加えているのが地球温暖化です。
アメリカ中部の広い範囲で甚大な被害を出した竜巻のニュースは日本でも大きく報道されたと思います。中でもケンタッキー州のキャンドル工場は、クリスマス需要に対応し24時間体制をとっていたため多くの犠牲者を出したとされています。そこで生き残った従業員たちの証言が衝撃を与えました。竜巻に襲われる直前に「(会社側から)自宅に帰ったらクビだと警告された」というのです。亡くなった人は職を守るために命を犠牲にしてしまったことになります。
今回の竜巻も含め異常な自然災害の多くは地球温暖化が原因と考えられ、こうした災害はこれからも増えるでしょう。屋外や空調のない倉庫などでは、気温が上がれば健康リスクが高まります。その場合、「命か職か」というこれまであり得なかった選択をしなくてはならなくなることに皆が気づいたのです。
こうしたニュースを目にして誰もが自分を振り返り、もっと賃金が高い安全な職場に移りたいと願うのは当然でしょう。
大辞職時代に直面し、時給を上げたり、もっと福利厚生を充実させようという会社も出始めています。しかしそこには、5000万人以上が福利厚生がない職場で働いているという現代アメリカが抱える根本的な問題もあります。
それを解決しようとする新たな動きが労働組合の結成です。ニューヨーク州バファローのスターバックス従業員の組合結成は大きなニュースになりましたが、巨大企業からどれほどの結果をもぎ取れるのかはまだ未知数です。
しかし、こうした動きと同時に、利益のために賃金や福利厚生を極力抑えてきた行きすぎた資本主義への批判も頻繁に聞かれるようになりました。パンデミックをきっかけに始まった「働く」意味の見直しは、まだまだ続きそうです。
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