独白 愉快な“病人”たち

ポルノスターまりかさん 米国での乳がん手術を振り返る 両胸全摘でも仕事続け殿堂入り

まりかさん
まりかさん(提供写真)
まりかさん(ポルノスター)=乳がん

「まりかは十分がんばった。でも“可哀想”だと思ったら萎えちゃうから、むしろまりかのために引退してほしい……」

 仕事復帰するまでの2年間、SNSで病気の経過を報告していると、ファンの方々からそう書かれることもありました。

 でも、ポルノをやめるつもりはまったくなくて、「がんで両胸を失っても復帰してみないとどうなるかわからなくない?」と思っていました。続ける私をどう見るかは、みんなが決めればいいんだし。だから胸の再建には時間もお金もかけました。

「乳がん」がわかったのは、2018年10月でした。隣人のがんをきっかけにセルフチェックをしたら、右胸にしこりの感覚があったのです。米国では保険制度が複雑なので病院にかかるのも大変ですし、医療費も高額。おまけに英語力も足りないので「ヤバイな」と思いました。

 それでもなんとか検査を受けられ、「99%良性です」と言われたまではよかったのです。ただ、「しこりが大きいので数年後にがんになる可能性があるから手術すべき」という方向に話が進んでいき、部分麻酔の軽い手術で右胸のしこりを取りました。すると、2週間後の検診で「しこりはがんでした」と告知されたのです。最初はまったく信じていなくて、自分の英語力に問題があって「君はがんだったよ」と聞こえるだけだと思っていました。

 一時は帰国を考え、お世話になっている雑誌「PENTHOUSE」のオーナーに相談をしました。すると、世界有数のがん専門病院「City of Hope」(以下CH)を紹介してくれて、「どんなタイプのがんか、どんな規模の治療が必要かを調べてからでも帰国は遅くないのでは?」とアドバイスされました。

 そのCHで検査したところ、私のがんはゆっくり進行するタイプだとわかり、腫瘍を取った後は抗がん剤ではなくホルモン治療しか効かないと言われました。ひとまず緊急性のないがんに安心して米国で治療することを選び、そのままその病院で手術を受けました。

 米国では医療も分業化されていて、手術をするドクター、放射線のドクター、乳房再建のドクター、治療プロジェクトをまとめるドクターなどそれぞれに予約を取って、説明を聞かなければなりません。それが本当に大変でした。もっといえば、血液検査さえもCH内ではなく、紹介された場所へ行かなくてはならないんです。

■仕事復帰のために両胸の全摘を選択

 腫瘍は右胸だけだったのに両胸を全摘した理由は、主にポルノの仕事に復帰するためです。初めは乳房の温存しか考えていませんでした。でも部分切除だとその後に放射線治療が必須で、やけどのような痕が残る上に皮膚が硬くなって、乳房再建が難しくなるというデメリットを聞きました。

 一方で全摘出すれば乳房の同時再建ができ、傷はメークで隠せるレベルになる。さらに、再発の危険性を考えれば両胸の全摘出がベストだという結論に至りました。

 2回目の手術は2019年3月でした。センチネルリンパ節生検と両胸全摘出と乳房再建をすべて含めて手術は9時間に及びました。一番痛かったのは、乳頭からインクを注射するリンパ節生検です。通称「世界で一番痛い注射」と言われています。リンパの入り口が青く染まるので、その組織を採って手術中にリンパ節転移の有無を調べるのです。

 幸い転移はなかったものの、がんが大きかったので術後のダメージが大きく、予想以上に胸が回復しませんでした。数カ月後に乳首が取れてしまったのでその再建や、撮影に適したナチュラルな胸にするためにお腹や腿の脂肪を入れる手術もしました。

 胸を失くしてもポルノを続けるなんてどうかしているという同業者もいましたが、そんな私でも昨年は栄誉あるポルノ賞の殿堂入りを果たしました。本当にうれしかった。日本では若くて初めて脱ぐ子の価値が一番高くて、後はだんだん低くなるんですけど、米国では賞の獲得などキャリアを積むことで価値が上がっていきます。そこは大きな違いですね。

 おかげさまで、つい最近、3カ月に1回の検診が「次回から6カ月に1回でいいよ」と言われたところです。今はリミッション(寛解)状態ですが、がんはまだ私の体の中にいて、再発したら今回のような簡単な治療では終わらないと言われています。

 薬はタモキシフェンというホルモンブロック薬を10年間飲む予定です。これが副作用の強い薬で、しびれやむくみ、ほてりや気持ちの落ち込みなどと闘っています。つらいですけど、「この副作用と生きていくんだ」と思って、その都度、対処法を考えながら過ごしています。

 私は欲深い人間で、日常の小さなことはつまらないことで、もっと大きな面白いものをいつも求めていました。でも、がんになってからは朝起きることも幸せなことだと思うようになり、今は毎日真剣に生きることと向き合っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽まりか 日本生まれ日本育ち。国内でAV女優として活動し、2012年に渡米。13年に日本人として初めて男性誌「PENTHOUSE」の中央見開きページを飾るペントハウス・ペットとなる。14年から本格的にロサンゼルスに移住、21年には世界的ポルノ賞「URBAN X AWARD」(アーバンエックスアワード)で日本人初の殿堂入りを果たした。

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