Dr.中川 がんサバイバーの知恵

韓国の女優パク・ソダムさんは切除も 甲状腺がんは経過観察でよしの根拠

甲状腺がんで手術を受けたパク・ソダムさん
甲状腺がんで手術を受けたパク・ソダムさん(C)Yonhap News Agency/共同通信イメージズ

 韓国の女優パク・ソダムさん(30)が、甲状腺がんで手術を受けたと報じられました。主人公の娘を好演した映画「パラサイト」は、アカデミー賞とカンヌを同時受賞するなど、日本でも話題でしたから、ご存じの方もいるでしょう。

 複数の種類がある甲状腺がんのうち、9割は甲状腺乳頭がん。このタイプは30歳前後の女性に多く、30歳のパクさんは典型です。生理や出産歴など女性特有の原因が影響していると考えられていて、国内の調査でも「初経が若い」「初経から閉経までの期間が長い」などが、高リスクであることが分かっています。

 問題は、手術を受けるかどうかの判断です。甲状腺乳頭がんは、超低リスク、低リスク、中リスク、高リスクに分類され、超低リスクは進行が遅く、生命を危ぶむ恐れは少ない。ガイドラインでも、治療しない経過観察が推奨されます。低リスクは片葉切除が推奨されますが、私がセカンドオピニオンを求められた場合、若い女性には経過観察を推奨することが少なくありません。

 手術が必要なのはごく一部。再発を繰り返したり、悪性度の高いタイプに変わったりするケースです。高齢で発症するほど悪性度が高くなりやすいこともあり、とにかくリスク分類が重要。若い女性は、自然に消えることもあり、若い女性の低リスクは経過観察を勧めるのです。

 その点で、甲状腺専門病院・隈病院のデータが参考になります。甲状腺がんと診断された2153人を、直ちに手術を受けた974人と経過観察をした1179人に分けて追跡しました。その結果、手術を受けた人も受けなかった人も、甲状腺がんが原因で亡くなったケースはゼロでした。

 超低リスクは1センチ以下で、低リスクは1.1~2センチ以下。ともにリンパ節や遠隔臓器への転移がないものです。

 甲状腺は喉ぼとけの下にあり、成長や代謝に関わるホルモンを分泌。切除すると、ホルモン剤が一生必要で、発声に関わる神経が損傷されるため嗄声(させい=声のかすれ)が問題に。半年ほどで回復するケースもあれば、一生続くケースもあり、無視できません。手術の代償が大きいので、低リスク以下は経過観察が重要なのです。

 韓国では1999年から甲状腺がん検診が広がり、死亡に直結しないタイプの手術が増加。その過剰診断が問題視され、今では甲状腺がん検診の受診者が減り、甲状腺がんと診断される人が減少に転じています。

 しかし、日本では、東日本大震災の原発事故で当時18歳以下の全員に甲状腺検査を行った結果、200人を超える小児甲状腺がんを発見。原発事故で甲状腺がんの増加を関連づける報道が相次ぎましたが、誤解です。死亡に関係ない甲状腺がんを掘り起こしただけで、過剰診断です。

 男性の前立腺がんについても、同じことが当てはまります。過剰診断、過剰治療に注意してください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大医学部医学科卒業。同院緩和ケア診療部長を兼務。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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