がんと向き合い生きていく

抗がん剤には柑橘系の果物を食べない方がいいタイプがある

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「担当医に『次の治療から、当日はグレープフルーツを食べるのはやめてください』と言われました。普段からグレープフルーツはほとんど食べませんが、冬はミカンを食べることが多いのです。ミカンは大丈夫なのでしょうか?」

 大腸がんの患者さんからこんな質問がありました。

 大腸がんの治療に使われる抗がん剤に「イリノテカン」というものがあります。おそらくこの患者さんは「FOLFIRI併用療法」(フルオロウラシル<5-FU>、l-ロイコボリン<レボホリナート>、イリノテカンを同時併用する薬物治療)を受けるのでしょう。

 グレープフルーツには、苦味成分のフラノクマリン類が含まれています(大部分は果肉に存在していて、袋、皮、種には少量しか含まれていないようです)。これが薬の消化管における吸収や代謝に影響して、副作用が強く表れる可能性があります。

 グレープフルーツのこの作用は腸管で発現するといわれているので、イリノテカンのような注射薬ではあまり関係ないと思われるかもしれません。しかし、イリノテカンは腸肝循環(注射された薬物が胆汁とともにいったん十二指腸に分泌された後、腸管から再度吸収され、門脈を経て肝臓に戻る循環のこと)をするため、影響を受けると考えられます。グレープフルーツの作用は3~5日続くというデータもあるので、少なくとも注射の前後には取らない方がいいといえるでしょう。

 それでは、ミカンなど他の柑橘類ではどうでしょうか? フラノクマリン類の含有量は、同じ柑橘類でもそれぞれ違いがあります。グレープフルーツだけを見ても種類がたくさんあり、産地によっても異なるようです。

 ちなみに、フラノクマリン類の含有量が多いのは、夏ミカン、ダイダイ、サワーオレンジ、ブンタン、スウィーティー、ハッサク、安藤みかん、晩白柚、ライム、キンカンなどが挙げられます。逆に少ないのは、温州みかん、カボス、ネーブル、バレンシアオレンジ、マンダリンオレンジ、日向夏、レモン、ユズなどです。

 このように、似ている果物が並んでいて、どれがダメでどれが大丈夫なのか、とても分かりづらいといえます。また、フラノクマリン類は柑橘類以外にも含まれていることがあり、とても判断が難しいのです。無理に柑橘類を選ぼうとせず、代用可能なものを食べるようにして対応される方がいいでしょう。

■分子標的薬や降圧剤の一部も該当

 イリノテカンは、大腸がん以外でも、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、子宮頚がん、卵巣がん、胃がん、乳がん、有棘細胞がん、非ホジキンリンパ腫、小児悪性固形腫瘍、膵がんなどにも使われます。

 副作用は骨髄抑制と下痢が主なものですが、グレープフルーツの摂取には関係なく、10人に2人は強い副作用が出る場合があります。イリノテカンは肝臓で代謝を受け、活性代謝物のSN-38に変換されて抗腫瘍作用を発揮します。その後、SN-38はUGT(肝臓のUDPグルクロン酸転移酵素)によって抱合反応を受け、不活化されて腸管に排泄されます。

 このUGT活性の個体間差が、イリノテカンの副作用の個体間差の原因のひとつと考えられています。つまり、治療前にUGT1A1遺伝子多型を調べることによって、イリノテカンの副作用が発現しやすい体質を持つ人かどうかを見つけることができます。これは健康保険で認められた検査です。

 いずれにせよ、イリノテカンを使った薬物治療を受ける患者さんは、果物の摂取について、担当医をはじめ、薬剤師や看護師に聞かれた方がよろしいでしょう。

 なお、イリノテカン以外にがん治療に使われる薬で、添付文書にグレープフルーツとの相互作用の注意喚起があるものは、経口の分子標的薬であるイマチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブがあります。

 また、抗がん剤以外では、降圧剤のカルシウム拮抗薬がもっとも知られていて、グレープフルーツとの相互作用によって薬の血中濃度が高くなってしまい、より血圧が低下する可能性が報告されています。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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