日本人は「葉酸」が極めて不足…認知症・動脈硬化・うつ病のリスクが増大

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 この20年、日本人全ての世代で、健康を維持する上で重要な栄養素の摂取が不足している。「中でも深刻なのは葉酸」と指摘するのは、女子栄養大学副学長で自治医科大学名誉教授の香川靖雄医師だ。詳しく話を聞いた。

 日本人の世代別栄養摂取率のデータを見ると、ビタミンA、B1、B6、葉酸、ビタミンC、D、カルシウム、マグネシウムのうち、摂取率100%超、または100%に近い状態なのが、唯一、葉酸だ。このデータだけを見ると「葉酸は十分に取れている」と思ってしまうが、実は違う。

「厚労省の『日本人の食事摂取基準』では、妊婦を除く18歳以降の葉酸推奨量は1日240マイクログラム。しかし、これはWHOが推奨する量の半分程度です。日本では推奨量の設定が著しく低いため、見かけ摂取率100%前後となっているだけで、実際は足りていません」

 海外の“葉酸事情”は、日本とは異なる。

 アメリカでは1992年、妊娠の可能性のある女性全てに1日400マイクログラムの葉酸を摂取するように勧告が出され、イギリス、カナダが追随。98年にはアメリカ、カナダで主食に用いられる穀類に葉酸が添加される葉酸強化が行われ、葉酸強化は現在、世界84カ国で実施されている。主食を食べれば自然と葉酸を摂取できるので、多くの人が1日400~500マイクログラムの葉酸摂取量を維持できるようになった。

「しかし日本では40年ほど前に葉酸を多く取ると体に害があるという間違った論文が発表され、それが否定されて以降も葉酸強化が行われていません。葉酸は妊婦さんに特に必要なのですが、国際的には600マイクログラム取れているのに対し、日本の令和元年の調査では230マイクログラムでした。もともと日本の妊婦推奨量は480マイクログラムと低い。しかしその約半分しか取れていないのです」

■1日400マイクログラムを目安に摂取したい

 葉酸がさまざまな病気予防に役立つことは研究で明らかになっている。

 いち早く指摘されたのが、胎児の時に発症する「神経管閉鎖障害(NTDs)」だ。流産や死産の割合が高くなり、脊髄が外に飛び出す二分脊椎の発症率を高める。妊娠前からの葉酸摂取でNTDsの発症率が低下することは複数の研究で証明されており、葉酸強化実施国では、NTDsのリスクが下がっている。

 一方、日本では妊活中の人や妊婦は推奨量240マイクログラムに加えサプリメントなどでさらなる量を取ることが望ましいとなっているものの、NTDs予防という意味では妊娠に気付いてから葉酸を摂取しては、既に妊娠初期に奇形ができてしまうので遅い。日本でのNTDs発症率は先進国の中で決して低くなく、二分脊椎発生率も増加傾向にある。

「さらに、葉酸は動脈硬化のリスクを高めるホモシステインという物質の血中濃度を低下。日本で多い認知症もホモシステインが関係しており、葉酸は認知症対策に非常に重要です。また、うつ病にも葉酸不足が関わっています」

 国立精神・神経医療研究センター神経研究所の功刀浩部長(当時)らの研究では、うつ病の4人に1人が血液中の葉酸値が低かった。健康な人では10人に1人なので、明らかに頻度が高い。

「さまざまなビタミン、ミネラルが日本人は不足していますが、中でも葉酸は不足の程度が極めて大きく、意識して摂取する必要があります。目安は1日400マイクログラム。葉酸を非常に多く含むのが海苔、緑茶、レバー、ホウレンソウなど緑の野菜。ただし、食品だけで400マイクログラムを摂取するのは不可能なので、サプリメントを活用して欲しい」

 香川医師も、葉酸を毎日確実に摂取している。半年後には90歳を迎えるが、体内年齢などを測定すると、どの場合も70歳代との結果が出るという。

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