東洋医学を正しく知って不調改善

鍼を体に刺して痛くないのか? 心地よくて寝てしまう人も

日本式の「痛くない鍼」が世界の主流になりつつある
日本式の「痛くない鍼」が世界の主流になりつつある(C)日刊ゲンダイ

 おそらくこの疑問は、鍼の施術をまだ受けたことのない人の中で一番気になる点ではないかと思います。

 確かに体に鍼を刺すわけですから、なんらかの感覚はあります。でもそれは痛みというより、ずぅーんと響くような感覚。場合によっては、温かい毛布に包まれている感じを受けることもあり、人によっては気持ち良くて寝てしまうほど。乳幼児からできる「小児鍼」もあり、それに慣れているお子さんは、「気持ちいいから鍼やって」とせがんでくるほどです。

 ちなみに日本の一般的な鍼治療で用いられる鍼は直径0.18ミリ前後のものが多く、大変に細いために世界的にソフトな鍼として高い評価を受けています。日本人の髪の毛の太さの平均がおよそ0.08ミリ、歯ブラシの毛1本の太さがおよそ0.2ミリといわれていますので、その細さをご想像いただけると思います。

 さらに鍼の先端の形状にも工夫がされている上に、この鍼を日本オリジナルの鍼管を使うことでさらに不要な痛みを起こさず、効果を引き出すように工夫されています。

天野陽介氏
天野陽介氏(提供写真)
海外の豪華客船に日本人の鍼灸師が帯同することも

 そもそも鍼には、体には刺し入れずにツボを押したり、皮膚をこすったりするだけのものもあるほどですから。

 欧米では先に中国の鍼灸が広まったために、これまでは鍼灸といえば強い刺激が当たり前でしたが、最近はこの優しい刺激でも効果のある日本式の鍼灸が「痛くない鍼」として世界の主流になろうとしています。

 例えば長期で旅行する海外の豪華客船にも、日本人の鍼灸師が帯同することも少なくないほどです。

 では、どうしてこのように日本の鍼がソフトになっていったかといえば、そもそも刺激の許容量が日本人は海外の方と比べて繊細であることも一因です。また、日本では料理や芸術や武術にしても、簡素・質素なものから最大限の効果を得ることを目指すことが好まれることも要因としてあるでしょう。そのため、優しく痛くない鍼灸が支持されるようになったと考えられます。

 日本と中国と韓国は歴史的にもキャリアにおいても、鍼灸師の数も世界でずばぬけてトップクラスです。日本で鍼灸を行うためには、医師であるか、それとも3年間の養成校(鍼灸専門学校)で技術の習得と勉強をした後に、国家試験に合格した鍼灸師でなければなりません。だからこそ、日本の鍼灸は世界的に見ても安心安全な東洋医学だといえるでしょう。

天野陽介

天野陽介

日本医学柔整鍼灸専門学校鍼灸学科専任教員。北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部客員研究員も務める。日本伝統鍼灸学会、東亜医学協会、全日本鍼灸学会、日本医史学会、日本東洋医学会所属。

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