進化する糖尿病治療法

SGLT2阻害薬 日本で初めての慢性腎臓病治療薬として承認

倦怠感、息切れなどの症状にも注意(写真はイメージ)
倦怠感、息切れなどの症状にも注意(写真はイメージ)

 昨年8月、SGLT2阻害薬である「フォシーガ」が、日本で初めての慢性腎臓病(CKD)の薬として承認されました。SGLT2阻害薬は2014年に2型糖尿病の治療薬として発売され、一部は19年に1型糖尿病の治療薬としても承認。糖尿病治療では、非常によく用いられている薬です。

 SGLT2阻害薬は糖の排泄を促進するとともに、尿中への水分と糖の排泄を促進するので体液量が調整され、降圧薬ではないのですが血圧を低下させる作用も報告されています。同剤や「ジャディアンス」は慢性心不全にも適応拡大されています。また、SGLT2阻害薬には腎臓で尿を濾過する糸球体の内圧を低下、腎臓の負担を軽減させる働きがあり、今後は他剤においても心不全、腎不全の適応が広がると考えられます。

 今回の承認では、2型糖尿病を合併しているかどうかに関係なく、成人のCKDに使えるようになりました。ただし、末期腎不全または透析を実施中の場合には使えません。

 CKDは慢性の腎臓病すべてを指します。尿や血液、腹部超音波やCTなどの検査で腎臓に異常が見られ、腎臓の働きが60%以下に低下、あるいはタンパク尿が出るといった状態が3カ月以上続いている場合にCKDと診断されます。

 糖尿病や高血圧などでCKDは発症、悪化しやすくなり、高血圧があると腎機能を低下させCKDを発症・悪化させるという悪循環をたどります。CKDは早期に発見され治療が開始されれば元の状態に回復することもありますが、早期では自覚症状がほとんどありません。

 つまり、定期的な健康診断を受け、尿や血圧を調べていないと、早期発見はなかなか難しいのです。

 夜間尿、むくみ、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が出てきたときにはCKDがかなり進行している場合が多いといわれています。

 放置すると徐々に進行し、脳卒中や心筋梗塞など心血管病の発症リスクが高まります。

 CKDが進行して腎臓が本来の機能を十分に果たせない腎不全に至ると、体内から老廃物を除去できなくなるので、人工透析や腎臓移植が必要になります。

 みなさんにしっかりと認識して欲しいのは、腎臓はある程度の段階を過ぎて悪くなると、正常な状態に回復するのは困難だということなのです。

 冒頭で、承認された新薬「フォシーガ」が、CKDの日本で初めての薬だと述べました。これまで、腎臓の機能に直接働きかけて良くするものはありませんでした。あるのは血糖値や血圧を下げ、腎臓の機能が低下していくスピードを落とすもの。早期を除けば、薬を用いてもCKDを「治す」ことはできなかったのです。

 同剤の第3相試験では、腎臓の機能を5段階のステージ(病期)に分けたうちのステージ2~4かつ尿中アルブミン排泄の増加を認める患者さんを対象に試験が行われました。ステージ1と2は早期発見で回復の余地ありの段階、ステージ3は腎臓の機能が健康時に比べて半分近く低下しており専門医による本格的な治療が必要な段階、ステージ4は腎臓の機能が30%以下にまで低下しており機能回復は不可で現状維持が治療目標の段階です。

 これまでCKDの第1選択薬として中心的役割を果たしてきた「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)」、もしくは「アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)」にフォシーガを併用すると、プラセボ(偽薬)併用群と比較して、腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心筋梗塞や脳卒中による死亡、腎不全による死亡のいずれかの発生リスクを39%低下させるという結果。併用のタイミングによっては、人工透析に至る期間を大幅に遅らせる可能性もあるのです。

 腎臓病に関わる医師の多くが、SGLT2阻害薬を画期的な薬として捉えています。今後、CKDの治療の流れが変わる可能性もあると考えています。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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