名医が答える病気と体の悩み

大音量じゃないと聞こえない…ヘッドホン難聴の兆候は?

耳鼻咽喉科専門医の瀬尾達氏
耳鼻咽喉科専門医の瀬尾達氏(提供写真)

 音が原因によって発症する難聴は主に「騒音性難聴」と「音響性難聴」に分けられます。騒音性難聴は、鉄工所や工場などで働く方に多く、いわゆる職業病とされています。

 一方、音響性難聴に分類されるのが、イヤホンやヘッドホンで大音量の音を聞き続けることによる内耳性の難聴です。WHO(世界保健機関)は、世界で11億人に音響性難聴のリスクがあると発表しました。目安として、自動車の騒音レベル(80デシベル)を1週間に40時間以上聞いていると音響性難聴になりやすいといわれます。

 音の振動は、内耳の中の「有毛細胞」が受け取って、その振動を脳に伝達しています。有毛細胞は非常に繊細なので、大音量(振動)に長い時間さらされると傷ついてしまいます。それで音の振動を受け取りにくくなって、難聴につながります。

 音響性難聴は、周りの助言によって診療を受ける患者さんがほとんどです。突発性難聴のように、ある日突然、右耳もしくは左耳どちらか一方が聞こえなくなる病気の場合、本人が自覚しますから早期に治療に取り掛かれます。しかし、“ヘッドホン難聴”の場合、両耳が時間をかけてゆっくり難聴になっていくので、本人には「聞こえにくくなった」という自覚症状がありません。周囲が「最近、名前を呼んでも返事がない」「ヘッドホンから漏れる音が大きい」ということから、ネットなどで調べて、病院に連れてきます。

 すでに難聴が進行してから診察を受けるので、治療に時間がかかります。治療としては、末梢血流改善作用がある「ビタミン剤」、内耳の血流の循環を改善し神経機能回復を促す「循環改善剤」を服用します。

 予防としては、80デシベル程度の大音量で音楽などを聞くのは1日1時間未満とし、60分聞いたら、30分休憩することなどが勧められます。また、周囲の雑音を打ち消す機能の付いた「ノイズキャンセリング機能付き」のヘッドホンやイヤホンに替えるだけで、内耳への負担が減ります。

▽瀬尾達(せお・わたる)耳鼻咽喉科専門医。京都大学医学部大学院修了。兵庫県尼崎市で、瀬尾クリニックを開設し、毎日250人以上の患者を診察。また、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師も兼任。厚労省指定臨床研修医療機関、難病治療指定医として、とくに「突発性難聴」「メニエール病」や「プロの歌手や声楽家の音声治療」の診断と治療に力を入れている。

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