8年ぶり再開の子宮頚がん予防のHPVワクチン いま知っておくべきこと

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 昨年11月、8年ぶりにHPVワクチンの積極的勧奨の再開が通知された。知っておくべきことを自治医大付属さいたま医療センター産婦人科の今野良教授に聞いた。

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 HPV(ヒトパピローマウイルス)の長期間の感染が原因で発生する病気のひとつが、20~30代の女性に最も多いがん、子宮頚がんだ。したがって、HPV感染を予防するHPVワクチンは子宮頚がんワクチンとも呼ばれた。

 日本でHPVワクチンが子宮頚がん予防の定期接種(公費負担で無料)になったのは、2013年4月。しかし疼痛や運動障害など多様な症状が報告されたため、安全性が問題視され、2カ月後には「積極的勧奨差し控え」が厚労省から通知された。積極的勧奨とは、市町村が個別に積極的な接種を呼びかけること。差し控えとは、市町村からは個別通知や接種勧告を行わないが、希望者は定期接種を受けられるというものだった。

■問題視された安全性は?

 厚労省専門部会での議論が継続していたが、昨年11月、「安全性について特段の懸念が認められない」ため、2013年度の「差し控え」が廃止され、積極的勧奨が通常に戻った。

「接種後に生じた症状とHPVワクチンとに因果関係がないことは、名古屋市の大規模疫学調査、厚労省の全国疫学調査、海外での膨大なエビデンスではっきりと証明されていましたが、国の判断までに8年以上を要しました」

 HPVワクチンに限らず、どのワクチンも接種後に何らかの症状が出ることがある。たまたまワクチン接種に前後して体調不良が生じることも。体調不良の際には、まず接種医に相談。今では全国の自治体に相談窓口が設置され、医師会の手引書も作られている。

■だれが対象?

 HPVは主に性交渉で感染するため、思春期前の接種が望ましく、定期接種の対象は小6~高1の女性。標準的には6カ月間に3回接種する。

「ただし、HPVは一度感染しても消えることが多く、思春期以後の接種でも十分に有効。20~25歳の日本人女性で、子宮頚がんの原因になりやすいHPV16、18型に感染しているケースは10%に過ぎず、この年代でも90%の人に有効性が期待できます」

■接種の効果は?

 子宮頚がんはHPV感染後、前がん病変を経て発症する。各国の研究でHPVワクチンの効果は感染をほぼ100%防ぎ、前がん病変、子宮頸がん双方の予防は80~90%台と非常に高い。接種年齢が低いほど抗体価の上昇が高い。

 日本では子宮頚がんは毎年約1万人が感染し、2800人が命を落としている。一方、子宮頚がん検診の高い受診率に加えて、HPVワクチン接種が進んだ諸外国では子宮頚がんの罹患数は激減している。

「WHOは全世界で2030年までにHPVワクチン接種率を90%、検診受診率を70%にすることで、今世紀中に子宮頚がんを世界から消滅させるのを目標にしています」

 実際、2020年にはHPVワクチン接種率が70%を超えている国が、中低所得国を含めすでに20カ国以上。検診受診率とワクチン接種率の高いオーストラリアでは、28年には子宮頚がんがほぼ征圧(人口10万人当たり4人以下)されると推測されるが、日本がこのレベルに達するのは、遅れること50年後の2080年だ。

「残念なことに、日本は子宮頚がん予防においてほかに例がないほど遅れてしまいました。子宮頚がんが激減している国のレベルに近づくには、並外れた努力が必要です」

■どのワクチンを受けるべきか

 現在、HPVワクチンは3種類ある。子宮頚がんを引き起こしやすい16型と18型の感染を防ぐ「2価」、それに良性のコンジローマの原因になる6型と11型の2つを加えた「4価」、さらに4価の改良版でがんに関連する5つの型を加えた「9価」だ。

「どのワクチンも非常に有効です。定期接種に使用されるのは2価と4価。子宮頚がん予防の効果が高いのは2価か9価。コンジローマ予防を考えるなら4価または9価です」

 9価は定期接種の承認はまだで、自己負担は10万円程度かかる。

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