Dr.中川 がんサバイバーの知恵

石原慎太郎さんはすい臓がん再発で…根治にはとにかく手術を

石原慎太郎さん
石原慎太郎さん(C)日刊ゲンダイ

 安らかな最期だったそうです。

 1日に亡くなった石原慎太郎さんは、直前まで執筆活動を続け、その日は眠るように息を引き取ったといいます。享年89。苦しまずに済んだのは、何よりだと思います。

 石原さんは2年前、すい臓がんであることを公表。夜間頻尿でかかりつけ医を受診し、腎臓のエコー検査を受けた時に、がんが見つかったそうです。その時、ステージ1。それで選択したのが、重粒子線治療だと週刊誌のインタビューに語っています。

 すい臓は、X線をはじめとする従来の放射線が効きにくい細胞である一方、それを取り囲む消化管などの組織は放射線の影響を受けやすく、従来の放射線では十分な治療効果が得られませんでした。

 その困難を克服したのが重粒子線です。放射線の影響を受けやすい周りの組織を避けながら、放射線が効きにくい細胞にも高い殺細胞効果が示されています。

 そこで、すい臓がんの重粒子線治療が先進医療として認められているのは2つ。手術を前提とした術前重粒子線治療と、手術ができない、あるいは手術を希望しない人への重粒子線治療です。前者はステージ1~2b、後者はステージ1~3が対象です。

 石原さんは当時、87歳。年齢から手術の負担が重く、重粒子線単独での治療だったのかもしれません。

 すい臓がんの5年生存率は12.1%。ステージ1でも49.8%です。この49%に入るためには、手術できるかどうかにかかっています。重粒子線治療が誕生しても、根治を目指すなら手術なのです。

 そこで、見逃せないのが化学療法でしょう。効果的な薬剤が登場し、従来なら「手術不能」とされた症例に使用することで、手術できるケースが珍しくなくなっているのです。

 その薬剤が、ゲムシタビン、ナブパクリタキセル、フォルフィリノックスの3剤併用療法。これによって手術ができるケースは、コンバージョン手術と呼ばれます。これが適用になると、最初から手術適用の人と遜色ない成績です。

 そのためには、手術に耐え得る体力が欠かせません。そもそも、3剤併用療法は、8カ月という長期に及びますから、最初から手術ができるステージ1、もっといえばステージ0で見つけるのが理想です。

 早期発見の武器が、石原さんも行った超音波検査。すい臓の消化液が流れるすい管の拡張とすいのう胞(すい臓にできる袋状のもの)が見つかったら、精密検査を受けること。特に糖尿病や慢性すい炎、大量飲酒、喫煙はすい臓がんのリスクですから、1年に1回の超音波検査をお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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