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【HPVと子宮頚がん】ワクチンで防げる病気「VPD」から命を守る

写真はイメージ
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「ワクチン忌避」という言葉をご存じでしょうか? 自身や子供にワクチンを打つことを躊躇したり、拒否したりすることを指す言葉です。

 新型コロナワクチンを打つ打たないといった議論で、最近はワクチンが非常に注目されるようになりました。ただ、新型コロナウイルス感染症が問題になる以前から、ワクチン忌避は大きな問題として考えられていて、WHO(世界保健機関)が発表した2019年における「世界的な健康に対する脅威」のトップ10の中の一つにも選ばれています。

 日本でも、子宮頚がん予防のHPVワクチンにおいて、今も大きな問題が起こっています。日本では、2010年に12~16歳の女性を対象とした公費補助によるHPVワクチンプログラムが始まりました。当初、接種率は70%を超えるまで普及したのですが、13年6月に複数の有害事象が報告されたことを受け、国は積極的な勧奨を取りやめています。

 それらの有害事象は、HPVワクチンとの因果関係が不明とされているにもかかわらず、多くのメディアがニュースとして取り上げ、広く報道しました。中には恐怖をあおるような報道も多く見受けられました。

 勧奨を中止した予防接種は、個別に接種時期などを知らせて強く促したり、予診票を送ったりすることができません。保護者らへの情報は途絶え、同ワクチンの接種率は1%未満に落ち込み、現在でもその低迷状態は続いています。

 しかし、厚生労働省は最新の知見を踏まえ、ワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことなどを確認し、22年4月から積極的勧奨を再開することを決めました。

 ワクチンで防げる病気を「VPD(Vaccine Preventable Diseases)」と呼びます。かかると今でも治療が難しく、命に関わる病気だからこそ、ワクチンが作られているのです。

 日本では、毎年多くの子供たちがワクチンで予防できるはずの病気(VPD)に感染して、重い後遺症で苦しんだり、命を落としたりしています。世界中に数多くある感染症の中でVPDはわずかですが、ワクチンに関する正しい知識を学び、防げる病気だけでも予防し、大切な命を守るよう行動すべきだと私は考えます。

 HPVワクチン接種にあたっては、その効果と安全性について、事前に本人と保護者の方に十分に理解していただくことが大切です。以下のサイトも参考になります。

■厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
■みんパピ! https://minpapi.jp

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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