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出っ歯は矯正したほうがいい? 歯に悪影響はあるのか

歯科医の菊池香織氏
歯科医の菊池香織氏(提供写真)

 いわゆる「出っ歯」とは、前歯が前に出ている状態で、歯科では「上顎前突」と呼んでいます。その程度は、上の前歯が下の前歯に比べてどのくらい前に出ているかのギャップによります。一般的に4~5ミリ以上前に突き出た状態とされることが多いですが、明確な定義はありません。

 上顎前突には「歯性」と「骨格性」の2種類があり、歯性は歯が生えた位置や上の前歯が手前側に傾斜しているなど歯の問題で、骨格性は上顎が前に突出している状態で、骨にも問題があります。

 基本的には、上顎前突に対する歯の矯正治療は自費診療になります。患者さんが「出っ歯が気になる」と矯正を希望すれば実施するケースもありますが、前歯が突き出た状態でも食事などで弊害がなければ無理に矯正する必要はありません。

 出っ歯による弊害とは、①見栄えの悪さ、②前歯でモノを噛めないため奥歯に頼ってしまう、③発音・滑舌に影響する場合をいいます。

 ①は、どうしても見た目が気になって悩んでいる方にとっては深刻な問題になります。

 ②の場合、歯のトラブルが生じやすくなります。食べ物は主に前歯で噛み切り、奥歯ですりつぶします。奥歯は噛む力が一番強く、奥歯だけに頼ってしまうと奥歯がすり減ってしまい、噛み合わせが悪くなるリスクがあるのです。奥歯を失ってしまうと顎関節症を招いたり、噛む力が衰えて胃腸に負担がかかります。

 ③の場合、上顎前突では上の前歯と下の前歯の噛み合わせがずれるので隙間ができてしまい、その隙間から息が漏れることによって発音に影響します。出っ歯のためにうまく言葉を発音できなかったり、滑舌の悪さに悩んでいる方は矯正を検討する手もあります。

 出っ歯の治療にはいくつか方法があります。歯列矯正であれば、最もメジャーなのが「ワイヤ・ブラケット矯正」です。前歯がねじれていたり、重なっている人でも矯正は可能です。ただ、歯にワイヤを装着するため目立ってしまうのと、取り外しが簡単にできない点がデメリットといえます。

 ほかに「マウスピース矯正」があります。装着するマウスピースは透明なのでそれほど目立たず、自由に取り外せる分、清潔も保ちやすい利点があります。ただし、重度の出っ歯の矯正には向いていません。

 いずれも矯正期間は2~3年で、器具の種類などによってクリニックで独自で価格を設定しています。50万~150万円が一般的な相場です。

 次回は、外科手術が必要になる出っ歯の状態と治療法を紹介します。

▽菊池香織(きくち・かおり) 1999年日本歯科大学卒業後、2000年同大学付属病院矯正歯科勤務。03年同矯正歯科退職後、都内舌側矯正専門クリニック勤務後、05年フリーランスの矯正医として複数のクリニックで診療。06年WSLO世界舌側矯正歯科学会認定医資格取得、15年から東京都港区に麻布十番矯正歯科室を開業。

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