コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

男性不妊の精子判別補助AIの実力 感度99%、陽性適中率92%

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写真はイメージ(C)PIXTA

 晩婚化による不妊治療の増加で、国内の新生児は2019年には14人に1人が生殖補助医療(体外受精や顕微授精)によって誕生している。不妊症は男性にも約半数に乏精子症や精子無力症などの原因があり、特に顕微授精の実施件数は増加の一途をたどっている。

 良好な精子を見極め、1つの精子を卵子に注入する顕微授精において、その作業をする「胚(はい)培養士」の判別精度の均質化が重要なポイントになる。しかし、精子の判別における明確な基準はなく、胚培養士の知識と経験に依存しているのが現状。そのため、各医療機関における選択基準の均質化が課題となっている。

 その課題を解決しようと、光学・電子機器メーカー「オリンパス」(東京都新宿区)が開発を進めているのが「精子判別補助AI」だ。同社・ライフサイエンスマイクロスコープビジネスの金木伸介マネジャーが言う。

「当初は東京慈恵会医科大学との共同研究から開始し、男性不妊の1000症例から最大1万件の教師データを作成して、精子の頭部形態や運動性を総合的に評価し、精子を判別する基準をAIに学習させました。19年には、1066個の精子画像をAIに学習させ、動画内の精子を感度99%、陽性的中率92%という高い精度で認識し、その運動性能の算出に成功しています。これにより、リアルタイムでの精子判別が可能になりました」

 AIによって選別された精子は、具体的にはこう表示される。顕微鏡を通して精液を見ると、動いている精子が数多く観察できる。

 そこに精子判別補助AIのシステムを連携させると、AIがそれぞれの精子の頭部、頚部の形態を解析して、良好の形態の精子は「青枠」で、不良な形態の精子は「赤枠」で表示される。

 精子の運動性能は、精子が前進すると軌跡が黄色いラインで表示される。その軌跡および色(速度)から、精子の前進運動率の高さなどの判断材料になる。これらの表示のアシストによって、胚培養士の精子の選別作業がスムーズに行えるようになるわけだ。

 同社はAIシステムの最適な活用方法について検討を進めているという。

「精子判別補助AIの一番の目的は判別精度の均質化ですが、胚培養士スタッフの作業負荷軽減にもつながります。顕微授精をサポートする弊社の技術が、患者さんのお役に立てればと願っております」

 早期の実用化に期待したい。

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