がんと向き合い生きていく

本田美奈子.さんの歌を聴いて思い出す「バンダナ贈呈式」

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「不要・不急の外出は控える」

 これを守って、自宅で物書きをしていたら、ラジオから本田美奈子.さんが歌う「アメイジング・グレイス」が流れてきました。

  ◇ ◇ ◇ ◇

やさしい愛の てのひらで
今日も私は うたおう
何も知らずに 生きてきた
私は もう迷わない
ひかり輝く 幸せを
与えたもうた あなた
おおきなみむねに ゆだねましょう
続く世界の 平和を

  ◇ ◇ ◇ ◇

 まさに天使の歌声です。

 本田美奈子.さんは2005年1月、急性骨髄性白血病の診断を受けました。染色体異常のある難治性のタイプでした。某病院に入院し、一時は良好な状態でしたが、9月に再発。臍帯血移植を受けましたが、残念ながら同11月6日に亡くなられました。21年11月に予定されていた追悼コンサート、さらに十七回忌が新型コロナの影響で中止になったそうです。

 10年2月15日のことです。都立駒込病院で、本田美奈子.さんの母親である工藤美枝子さんと「LIVE FOR LIFE(LFL)」のスタッフによるバンダナの贈呈式が行われました。駒込病院は、本田美奈子.さんが治療を受けた病院ではないのですが、白血病患者の骨髄移植が日本で最も多く実施されている病院で、バンダナ贈呈は白血病患者や病院スタッフに本田美奈子.さんの遺志を伝え、激励する意味があったのだと思います。

 贈呈式には、当時、日本造血細胞移植学会を主催した坂巻壽副院長と私が出席しました。たくさんのバンダナをいただき、患者さんに分けて差し上げることになりました。

 LFLが作製したバンダナには、本田美奈子.さんが生前に好きだったという四つ葉のクローバーと、「アメイジング・グレイス」の楽譜がプリントされていました。

 娘の遺志を伝えたい母親の温かい、そして切ない気持ちがズシリと伝わってきました。親として亡き娘のために、そして白血病の患者のために、大切な仕事として頑張っている、ありがたい母の思いであったと思いました。

 無菌室ではかつらの使用が禁止されています。白血病治療中の本田美奈子.さんは、抗がん剤治療の度に髪の毛が抜けるのがとても不快で、また毛穴から染み出てくる抗がん剤の臭いがとても嫌で、1日に何枚もバンダナを使ったと聞きました。贈呈式では、本田美奈子.さんのCDも2枚いただきました。もちろん、「アメイジング・グレイス」も収録されていましたが、本田美奈子.さんが作詞した曲もたくさんありました。彼女は散文や詩を書くのが好きだったようで、平和の願いを込めた歌詞が多いのです。

 最近、ラジオでたまたまシンガー・ソングライターの半崎美子さんが歌う「地球へ」という曲を耳にしました。心に響く歌で、インターネットで調べてみると、この歌詞は本田美奈子.さんの散文を基にして書かれたとのことでした。世界の平和への願い、思いは受け継がれているのだと思いました。

「地球へ」の歌詞をつづります。

  ◇ ◇ ◇ ◇

眠らずに今日もまた まわり続けているけど
疲れてはいないですか?
できることはありますか?
今現在と100年前とどこか違っていますか?
あつくなったり寒くなったりしてはいませんか?
静かに語る言葉を 大事に受け取り繋げたい
あなたの命も私と同じで限りあること知っているから
森のささやきや海の祈りに耳を澄ませたい
共に生きるために

  ◇ ◇ ◇ ◇

 今、白血病やがんと闘っている患者さんとご家族は、コロナ流行の中で入院の面会もままならず、またいろいろなことで大変さが増していると思います。ご本人でなければ分からないつらさだと思います。きっと音楽は、心の支えになっていると思います。肩の力を抜いて、リラックスして、音楽を聴いたりして、どうぞ、負けないでください。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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