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鼻毛は抜かない方がいい? 頻繁に抜いていると悪影響があるのか

耳鼻咽喉科医の松尾有希子氏
耳鼻咽喉科医の松尾有希子氏(提供写真)

 鼻は、いわば空気清浄機と加湿器の機能を持っています。その機能を維持するために、鼻毛は抜かない方がいいといえるでしょう。

 鼻毛にはまず、空気清浄機におけるフィルターの役割があり、花粉、細菌、ウイルスといった鼻の入り口に入ってきた異物を絡め取ります。その後、鼻の内側の粘膜が異物を吸着させ、さらに、粘膜を覆う繊毛が異物を喉に押し出します。

 また、鼻毛は加湿器のように外界から入る空気の温度と湿度を調整しています。喉や気管や肺は冷たく乾いた空気に弱いため、鼻内で保湿する必要があるのです。冷たく乾燥した空気が直接、喉から入るとウイルスや細菌が繁殖しやすくなり、インフルエンザなどの感染症やアレルギー性鼻炎、鼻前庭炎や毛嚢炎といった炎症の原因にもなります。鼻前庭炎は細菌感染によって、鼻の入り口がヒリヒリしたり、酷くなると皮膚が腫れて分泌液が出てきます。さらに悪化したものが毛嚢炎で、皮膚の毛根を包んでいる部分に細菌が繁殖し、膿がたまります。

 また鼻毛を抜くと、鼻の内側の粘膜に腫れが生じます。腫れた部分は刺激に敏感になるので、侵入した細菌、ウイルスを常に排出しようとして鼻水がたくさん出ます。さらに粘膜が腫れて炎症を起こした場合、鼻詰まりが起きます。

 一般的に「口呼吸」の人が風邪をひきやすいといわれるのは、細菌やウイルスが直接体内に侵入しやすくなるためです。

 鼻炎などの症状がある人は口呼吸になりがちなので、「鼻呼吸」を意識し、鼻毛も抜かないようにしましょう。

 そのほか、鼻毛を抜くと嗅覚を失うため「嗅神経性嗅覚障害」になるケースもあります。匂いの粒子は鼻毛に絡みつき、鼻腔の奥にある嗅粘膜に届くことで、嗅神経を通って脳へ伝わります。そのため、鼻毛を抜いてしまうと匂いの粒子が嗅粘膜まで届かないことがあり、嗅覚が落ちてしまうので大変心配です。

 非常にまれですが「鼻毛を抜いて死亡した」という事例を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。可能性としてはゼロではありません。毛穴に雑菌が入ることで先述した毛嚢炎から、脳脊髄炎などを引き起こせば、最悪、死亡するケースもあります。それはすでに糖尿病などを患っていて、免疫力が落ちている方に当てはまります。

 鼻毛の処理は抜くのではなく、鼻の入り口の毛を残して切るのが適切です。

▽松尾有希子(まつお・ゆきこ) 聖マリアンナ医科大学卒業後、聖マリアンナ医科大学付属病院耳鼻咽喉科学教室入局。新小岩すばるクリニック院長、三茶おはな耳鼻科院長を経て、ささづか駅前おはな診療所院長を務める。

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