世界初の肺がん治療薬が日本で承認 これで治療はどう変わるのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 肺がんの新薬が続々と登場している。1月に日本で製造販売が承認された「ソトラシブ(商品名ルマケラス)」は、進行肺がんのうち「KRAS(ケーラス)遺伝子変異」というタイプに有効な世界初の薬だ。静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科の高橋利明部長に聞いた。

 肺がんのうち8~9割が「非小細胞肺がん」に分類され、がんの広がりが狭ければ手術、がんが体の中で広がり、手術ができなければ放射線や抗がん剤が適応となる。

 しかし近年、がんには多くの遺伝子変異が存在し、患者ごとに違いがあることが研究で分かってきた。そこで手術でがんを取り除けない進行・再発がんの場合、がんの原因となっている遺伝子変異を調べ、患者の遺伝子異常に応じた個別の治療を行う。これが、肺がんの個別化治療だ。

 今回、日本で承認された「ソトラシブ」は、KRAS遺伝子変異のうち、12番目のアミノ酸が変異した「KRAS G12C変異」の肺がんに対して作用するもの。

「遺伝子変異が判明しているものでは、頻度の少ないものも含め多くの薬が開発されており、日常診療で使われています」(高橋部長=以下同)

 それによって不良だった進行・再発非小細胞肺がんの予後が改善。複数剤の薬が開発されている遺伝子変異がんでは、生存期間を延ばせるようになってきた。

「一方、KRAS遺伝子変異は古くから確認され、非小細胞肺がんの腺がんの中でも日本人で約10%、欧米人(主に白人)で32%を占め、欧米人では最も多い遺伝子変異であるにもかかわらず、薬の開発が難しく、有効な手だてがありませんでした」

 過去40年近く「undruggable(薬にすることができない)」といわれてきたのが、KRAS遺伝子変異の肺がんなのだ。肺がんはそもそも死亡数が男性では1位、女性では2位と、相対的に5年生存率が低い。その肺がんの中でも、KRAS遺伝子変異は特に予後が悪かった。

「治療としては、免疫チェックポイント阻害剤単剤か、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法が行われますが、KRAS遺伝子変異の中でもKRAS G12C遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者では、初回の治療で効果が得られなくなり、次の治療に進んでも、無増悪生存期間(がんが縮小したり安定した状態の期間)の中央値が3~4カ月。そういった治療の選択肢しかありませんでした」

■無増悪生存期間がほぼ倍に延長

 ところが、結論から言うと、世界初のKRAS遺伝子変異の薬「ソトラシブ」は、現状を大きく変えそうだ。

 製造販売承認につながった国際共同第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(CodeBreaK100)では、日本人を含む126人のKRAS G12C遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者に「ソトラシブ」を1日1回経口投与。患者は免疫チェックポイント阻害剤および、または抗がん剤の前治療歴のある人たちだ。

 すると、奏効率、つまり事前に設定された基準を超えた効果があった患者は37.1%。完全にがんが消えた人も、わずか4人とはいえ、いた。また、43.5%の人が、がんの縮小まで至らなくても、腫瘍が大きくならず、安定した状態を保てた。抗腫瘍効果があったということだ。

「特徴的だったのは、1年以上にわたって治療継続している人が15%程度いる点です。長く治療を続けられる。無増悪生存期間も、これまでの中央値3~4カ月に対し、ソトラシブは中央値6.8カ月と、既存治療のほぼ倍でした」

 薬と関係のある副作用として、下痢や肝機能障害が報告されている。

 KRAS遺伝子変異の患者に有力な治療選択肢ができたのは確か。今後の課題としては、ほかの遺伝子変異の分子標的薬と比べると効果が劣るので、ほかの薬との併用がどうなるのか。研究が行われるという。

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