がんと向き合い生きていく

心配を分かってもらえていない…不安を抱えるがん患者の気持ち

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私は、「はい」と答えて診察室を出ました。転移の影ではないと言われましたが、不安がよぎります。「転移でなかったら何が考えられるでしょうか?」と、どうして聞かなかったのかと後悔しました。

 診察の時、B看護師がジッと私を見つめていたように感じました。

 結果が良ければ、病院の近くのお店でコーヒーを飲み、モンブランケーキを食べて帰るつもりでしたが、素通りしました。また、自宅近くのスーパーで総菜を買って帰るつもりでしたが、そちらにも寄りませんでした。

 2カ月後、再びCT検査を受けたところ、担当医から「影が消えています。機械の人工的なトラブルだったように思います」と言われました。これでホッとできました。この2カ月間の不安はなんだったのだろうかと思いました。

 診察室を出たところでB看護師が近づいてきて、拍手をしながら「よかったですね。これで安心しましたね」と言ってくれました。フェースシールドとマスク越しでしたが、目がニコニコしているのが分かりました。

 私はとてもうれしくなって、「ありがとう」と何度も繰り返しました。B看護師は本当に心配してくれていたんだと感じました。

 ◇ ◇ ◇

 がんの患者さんは、たくさん不安な思いを抱えています。それだけ繊細なのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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