感染症別 正しいクスリの使い方

【急性中耳炎】中等症以上では抗菌薬の投与が推奨されている

写真はイメージ
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 急性中耳炎は、急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴う場合があります。主に幼児に多い疾患ですが成人でも発症するケースがあります。

 合併症のない急性中耳炎に対し、軽症例では3日程度、抗菌薬を投与せずに対症療法のみで経過を見ることが推奨されています。しかし中等症以上では抗菌薬の投与が推奨されており、重症例ではそれに加えて鼓膜切開も考慮されます。鼓膜は再生能力が強く、切開しても炎症が落ち着いてくると通常は3~4日で閉じるといわれています。昨年、私も鼓膜切開を経験したのですが、けっこう早く閉じてくれました。

 抗菌薬はペニシリン系のアモキシシリンを最初に使うケースが多く、3~5日で効果がない場合は、原因菌の抗菌薬に対する感受性を見ながら、別の経口抗菌薬に変更されるのが一般的です。

 急性中耳炎を引き起こす原因菌としては、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリスといった細菌が多く、これらはいずれも肺炎の原因菌として知られています。

 肺炎の場合は基本的に注射による抗菌薬治療になる場合が多いのですが、急性中耳炎では経口抗菌薬による治療がほとんどです。これは肺炎と急性中耳炎の重症感の違いによるところが大きいと思われます。肺炎は重篤化しやすく命に関わることもありますが、現代では急性中耳炎で死亡したという事例は聞きません。

 肺炎治療の目標は原因微生物の殲滅です。一方、急性中耳炎においては活性の高い原因菌をいくらか叩いておけば、多くの場合、自己免疫でよくなっていくのです。

 また、最近は耐性菌の増加を防ぐためにも、必要がない場合はなるべく抗菌薬を使わない傾向が強くなっています。抗菌薬を使用する場合でも、命に関わらないケースでは、いろいろな細菌に効果を示す抗菌薬より、できるだけ原因菌のみを叩く抗菌薬が優先されることが増えているのです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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