最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

採用基準の“肝”は「患者の生活を丸ごと支える」覚悟があるかどうか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまでにもお伝えしてきましたが、在宅医療で働くスタッフを採用する時の基準として重要視しているポイントは、他のスタッフとの協調性ももちろんですが、「自宅だからこそ自分らしく患者さんが過ごせる」という価値観を他のみんなと共有し、それを実現するために、できる限り取り組めるかということです。

 この採用基準を明確に設けるきっかけとなった、ある経験を紹介したいと思います。

 それは当院が開院して7カ月ほど経った頃、20代半ばの看護師を採用しました。もともと病棟の勤務である程度経験を積んできた女性で、在宅診療という新しい場所で自分の仕事の幅を広げたいという前向きな動機で入職してきたのです。ところが当時、診療所内の業務の取り組み方が、各スタッフが自分が担当する業務を丸抱えし、詳細な内容については担当者以外分からない……という状況。いわゆる「属人化」していたため、忙しいスタッフと、そうでないスタッフとで二極化しており、彼女は後者のスタッフとなったのでした。

 実際そのスタッフは携帯でゲームをしたり、SNSで「暇だー」とつぶやいたり、時に医療事務のスタッフに話しかけては、プライベートな無駄話を延々としたりしていました。医療事務のスタッフにとっては算定業務の邪魔をされるわけで、その結果、現場の診療パートナーは内勤の後方支援が受けられず、移動の車の中で事務処理をするといった最悪な状況となっていました。最終的には残念ながら解雇としたのですが、なんとも後味の悪いこととなってしまいました。

 当時の私たちは、ただ目の前の仕事をこなすだけで精いっぱいで、仕事の優先順位などといったことが全く分からないまま、明確に誰でも同様に業務に取り組めたり、途中からの引き継ぎも容易にできる作業の「平準化」もできずにいました。

 実際、いちいちスタッフに「◎◎をしてください」と指示する時間もないほど現場は忙しいわけで、そのため現場から外れてサボろうと思えばいくらでもサボれるわけなんですね。

 この時の苦い経験は決して、勤務態度の悪い職員は今後は規則で縛るのが良いという方へは向かいませんでした。その前にすることがあると考えたわけです。

 大切なのは、私たちが目指す「在宅医療」の本質的な思いに立ち返ること。当院の強み(コアコンピタンス)はなにかということです。それはやはり「患者さんの生活を丸ごと支える」という気持ちを持っているか。そして、その志を「あけぼの診療所」では改めて採用基準としたわけなのです。

 それさえあれば、現場において臨機応変に対応できる人材になると信じたからです。

 現在では当院の持っている価値観と、本人がやりたいことがきちんと一致しているかを入職時に見極めるようにし、入職後も認識にズレが生じていないか、誤解が生まれているようであればきちんと話をして軌道修正をするなどの対処をするようにしています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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