オミクロン株は重症化リスクは低いが…ウイルス量がなかなか減らない 治療の現場から報告

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの新規感染者は2月初めから減少傾向が続いている。しかし、減少スピードは緩やかで、しばらくは高止まりのままで推移すると予測されている。また、3月7日時点で入院や療養が必要な感染者はいまも61万人を数える。そんな中、コロナ治療の現場では新たな問題に頭を悩ませているという。

 昨年末から国内で感染が急拡大したオミクロン株は、「感染力は強いが重症化リスクは低い」といわれる。感染者数が大幅に増加したことで重症者数や死亡者数は増えたが、致死率は約0.14%でこれまでのコロナウイルスより低い。

 海外でも、デルタ株と比較して重症化や入院リスクは低いと報告されている。オミクロン株が最初に確認された南アフリカでは入院リスクが0.2倍、重症化リスクが0.3倍、感染者が世界一多かった米国ではICU入室リスクが0.26倍、死亡リスクは0.09倍という数字だった。

 しかし、そうしたオミクロン株の特徴が、医療従事者の“悩みの種”になっている。江戸川病院グループ(東京・江戸川区)で新型コロナ患者の治療にあたる伊勢川拓也医師(総合診療科部長)は言う。

「重症化率および死亡率が高かったデルタ株に比べ、ワクチン未接種のままオミクロン株に罹患した患者でも軽症であるケースが多くみられます。感染して表れる上気道症状も軽いものが多く、高熱が持続する期間もデルタ株と比べると短い傾向にある印象です。基礎疾患があるなど重症化リスクがある方や、高齢者のうち酸素吸入が必要な方に入院治療を行っていますが、高齢者でも症状が軽く元気な人が多い。しかし、高熱などの強い症状が表れないことを反映してなのか、レムデシビルなどの抗ウイルス薬で治療をしていても、鼻咽頭のウイルス量がなかなか減らないのです」

 一般的に、新型コロナウイルス感染症は発症してから10日ほどで体内に抗体がつくられ回復していく。鼻咽頭の抗原定量検査で発症時に「5000(ピコグラム/ミリリットル)以上」と計測されていたウイルス量は、これまで8割以上が10日目には消失していたという。

「それが、高齢女性のオミクロン株感染者で発症6日目でも5000を超えているケースがあるなど、10日目を過ぎても600前後の数値がダラダラと続く例が多いのです。もちろん、ウイルス量が多いから強い感染力が残っているとか、逆にウイルス量が少ないから回復したと、すべてのケースで言えるわけではありません。ただ、はっきりしたデータは報告されていませんが、体内のウイルス量が300~500あると、密室空間になりやすく患者に接触して行う介護が必要な老健施設や医療機関では、さらにそこから感染を広げてしまう可能性が指摘されています。オミクロン株の場合、軽症で動ける人が多いため、認知機能が低下した高齢の患者さんでは入院中にベッドから離れて歩き回ってしまうケースも少なくありません。それだけ、医療従事者が感染を防ぐために注意すべき場面が増えているといえます」

 現時点で、厚労省が定める療養終了・退院基準は「発症日から10日経過(無症状患者は7日目)かつ症状軽快から72時間経過」となっている。しかし、退院後であったり療養期間が終わっていたりしても、鼻咽頭のウイルス量が減ってない人はいるため、ウイルスを排出しながら街中を歩いている可能性もあるのだ。

■初期のステロイド投与は回復が遅れる

 感染者のウイルス量がなかなか減らないケースはほかにもあるという。

「発症初期から治療薬としてステロイドを投与された患者さんの中には、ウイルスが検出されなくなるまで20日間を超えることもあり、酸素吸入が必要なまま回復が遅れてなかなか退院できず、自宅退院が難しくなって後方病院への転院が必要になるケースが見られます。実際、急性期を担う公的医療機関で発症初期からステロイド治療が行われた患者さんの転院を受けたことが何度かあり、回復が遅れているため酸素投与を続けなければいけなくなったケースを経験しています。ウイルス量が50程度に減った段階からの投与を行っている当院では、平均の入院期間が7日未満で、深刻な後遺症もなく社会復帰できていて、当院からの在宅直帰率は100%となっています」

 今後、これまでのオミクロン株よりも感染力が強いとみられる派生型「BA.2」への置き換わりが本格化するとも予想されている。感染した場合、症状と同時にウイルス量をしっかり確認してから、治療法や退院を決める方針が必要ではないか。

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