感染症別 正しいクスリの使い方

【外傷】幅広く細菌を殺す抗菌薬は重症以外では避ける必要がある

写真はイメージ
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 擦り傷や切り傷など、ケガをした時に抗菌薬は飲みませんよね? 多くの場合、自分で対処したり、医療機関を受診しても傷の処置をするだけで良くなることがほとんどだと思います。

 しかし、傷口が化膿する心配がある場合など、医療機関で経口抗菌薬が処方されるケースがあります。では、外傷後にはどのような細菌に感染するリスクがあるのでしょうか。

 一般的には、皮膚に普段から常在するような皮膚ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌といったグラム陽性菌の仲間に感染するリスクが高いと考えられます。使用する抗菌薬もそのグラム陽性菌をターゲットとする第1世代セフェム系やペニシリン系といった抗菌薬が選択されるケースが多いと思われます。

 セフェム系の抗菌薬は、開発された年代によって第1世代~第4世代と分けられていて、第1世代が最も古く、数字が大きいほど新しく開発されたクスリとなっています。最初に開発された第1世代セフェム系は、グラム陽性菌に優れた効果を示し、その他のグラム陰性菌などにはあまり効果を示さないといった特徴が知られています。

 一方、第3世代セフェム系は、グラム陰性菌などにも効果を示すよう設計されている場合が多く、幅広い抗菌効果を得ることが特徴として挙げられます。一見、幅広い細菌に効果を示す第3世代セフェム系の方が優れていると思えるかもしれません。しかし、グラム陰性菌による感染が想定されない外傷に対しては、そもそも使用する必要がない薬といえます。また、幅広い細菌が影響を受けるということは、それらの細菌がその抗菌薬を“経験”することにより、耐性菌へと変化するチャンスを与えてしまう事態にもつながりかねません。

 このほかにも第3世代セフェム系の飲み薬は、他の系統の抗菌薬と比較して消化管で吸収されて血液中に入る割合が非常に低いことが知られていて、中には14%しか吸収されないものも存在します。ここ数年、医療界では第3世代セフェム系の飲み薬を「DU(だいたいウンチになる)抗菌薬」と呼んだりするなど話題になっています。

 不用意に幅広く細菌を殺す抗菌薬は、重症例以外では極力避ける必要がありますし、無駄な抗菌薬の処方は可能な限り減らさなければならないのです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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