上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「胎児」の心臓手術は医師も機材も高い技術が必要になる

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 今回のような心臓治療は初めてのケースですが、生まれる前の赤ちゃんに対して実施される胎児治療は、いくつかの病気で行われています。生まれた後に治療を行っても救命がきわめて難しい病気が対象です。

 たとえば、先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児手術が該当します。生まれつき横隔膜に欠損孔と呼ばれる穴が開いていて、本来はお腹の中にある胃、腸、肝臓、膵臓、腎臓などの腹部臓器が胸の中に飛び出してしまう病気です。穴が大きく、胎児期にそうした臓器の脱出が起こると肺の発育形成不全を来し、死産や出生直後の死亡リスクが高くなります。そこで、母親の胎内にいるうちに手術を行い、肺がきちんと成長できるように促すのです。

■出生後の手術はハイリスク

 心臓の胎児手術でも同じですが、胎内の赤ちゃんは母親との間で「交差循環」のような状態になっています。交差循環(法)というのは、たとえば心臓を止めて子供の手術を行う際、子供の動脈・静脈と、母親(または父親)の動脈・静脈を管でつないで血液を循環させる方法です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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