このような交差循環の状態であれば、赤ちゃんの肺や心臓の機能にトラブルがあっても、母親側の臓器の働きによって肺や心臓の循環が、ある程度は維持されます。いわば母親が人工心肺装置になっているわけですが、治療中の母体への負担についても厳重な管理が必要なことは言うまでもありません。こうした状況であれば、母体の呼吸循環に対する厳重な管理を行った上で合併症予防にも配慮しつつ、胎児への外科治療が可能になるわけです。
胎児手術が行われず、肺や心臓などの臓器が発育不全の状態で生まれた赤ちゃんは、NICUと呼ばれる新生児のための集中治療室に入ります。心電図、呼吸、血圧、血液酸素飽和度などを24時間モニターしながら対応が行われますが、赤ちゃんにとっては、胎内とはまったく異なる環境にさらされることになります。
また、自力で呼吸をしなければならないのに、肺の発育が不十分だと、二酸化炭素と酸素のガス交換ができません。そうなると、肺はもちろん、心臓や腎臓が深刻なダメージを受けてしまいます。そうした状況で手術をすればきわめてリスクが高くなるため、母親のサポートがある状態での胎児手術が発展してきたのです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」