腰痛のクスリと正しくつきあう

鎮痛の代表的な漢方「芍薬甘草湯」は筋肉の張りが強い腰痛に使われる

写真はイメージ
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 前回に引き続き、腰痛に対して使用される「漢方薬」を紹介します。

 今回は一般薬としても広く認知されている「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」についてお話しします。

 構成生薬は、芍薬と甘草の2種類で非常にシンプルな処方です。漢方で「鎮痛」といえば、真っ先に名前があがる代表的な薬です。筋肉の張りが強く、手足のけいれんやこむら返り、足のつりなどを併発する場合によく使われます。

 筋肉の張りが強い状態は、中医学では「気」と「血(ケツ)」が一時的に不足している状態と考えます。「気」とは生命活動を支えるエネルギーのことで、自律神経の働きに近いものとされています。「血」は体中を巡ってさまざまな組織に栄養を与えているもので、主に血流に該当します。

 芍薬甘草湯は、不足している「気」と「血」を補って筋肉のこわばりや痛みを鎮める作用があるため、筋肉のけいれんを伴う腰痛にも用いられるのです。

 冷えが強く下肢の痛みやしびれが続く腰痛では、芍薬甘草湯に附子(ブシ)を加えた「芍薬甘草附子湯」を使うケースもあります。附子は、ハナトリカブトまたはオクトリカブトの子根を乾燥させたもので、新陳代謝を良くして血流を改善し、体を温め、痛みをとる作用があるのです。

 ただし、甘草を含む漢方薬は偽アルドステロン症が表れやすいので注意が必要です。血圧を上昇させるホルモン「アルドステロン」が増加していないのに血圧の上昇や、むくみ、体重増加が起こる場合があるのです。

 また、低カリウム血症(血清中のカリウム値が低くなること)によって、脱力感や四肢のまひなど重大な副作用のきっかけとなることもあります。ですから、安易な継続使用はお勧めしません。

芍薬(白芍と赤芍)
芍薬(白芍と赤芍)

 ほかに血行不良を伴う腰痛には「疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)」が良いとされています。不足した「血」を補い、体液全般に相当する「水」が停滞した状態も改善する薬で、血液循環や水分代謝を活発にする作用があります。

 17種類の生薬から構成されているので、効果の発現に時間がかかるイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、痛みに対しては即効性があり、腰から下の関節痛、筋肉痛などを改善するには最適で切れ味の良い漢方薬といえます。味が悪く少し飲みにくいのが難点です。

 漢方には、体質を見極める尺度として「証」という独自の“物差し”があります。「体質・体力・抵抗力・症状の表れ方といった個人差を表すもの」で、証によって処方の方針が決まってきます。証には「虚・実」という分け方があり、体力があって壮健な状態を「実証」、体力がない虚弱な状態を「虚証」と呼んでいます。

 芍薬甘草湯と疎経活血湯は、虚と実の一方に偏ることなくバランスのとれた「中間証」の状態に対して用いられることが多く、まずは試しに服用してみて効果が得られないようであれば使用する漢方薬を変更するケースもあります。

 副作用など使用上の注意点も含め、自分に合った漢方薬を知るためにも、医師や薬剤師に相談してください。

 次回も引き続き漢方薬についてお話しします。

池田和彦

池田和彦

1973年、広島県広島市生まれ。第一薬科大学薬学部薬剤学科卒。広島佐伯薬剤師会会長。広島市立学校薬剤師、広島市地域ケアマネジメント会議委員などを兼務。新型コロナワクチンの集団接種業務をはじめ、公衆衛生に関する職務にも携わる。

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