最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

診療パートナーは患者さんのQOLを上げるために必要不可欠な存在

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 65歳以上の高齢者の割合が人口の14%を超えた社会を「高齢社会」と呼びますが、日本がこの高齢社会に突入し始めたのは、高齢化率が14.6%を超えた1995年からでした。それから25年経った2020年の時点で高齢化率は28.8%と着実に増加しています。

 今後、高齢化がますます進むことで、福祉や医療のあり方、社会保障制度などが大きな影響を受けることは確実です。当然、在宅医療を巡る環境も大きな影響を受けることでしょう。

 中でも在宅医療がもっとも大切にする、患者さん一人一人の思いに沿ってQOL(生活の質)の向上を目指すことが、以前よりも増して困難になっていくことが予想されます。そのためますます、「診療パートナー」の存在が重要になっていくものと考えています。

 以前にもお話しした通り、この「診療パートナー」とは「医師」をはじめ「ルートマネジャー」「看護師」「看護助手」「言語聴覚士」「管理栄養士」「作業療法士」「理学療法士」といったさまざまな業務のスペシャリストで構成されているスタッフの総称です。自宅でただ治療するだけでなく、患者さんやご家族の要望や希望を聞きながら、療養生活全般をコーディネートするのに必要不可欠な存在です。

 しかし、この「診療パートナー」を在宅医療を行う全国のクリニックが100%導入しているかといえば、そうでもありません。

 そうなんです。「診療パートナー」がいる在宅医療といない在宅医療があるということです。

 もしもいない場合は医師が行う業務が煩雑になり、医師しかできない本来やるべき「診療業務」に割ける時間が減ってしまいます。たくさんの患者さんを診ることもできません。患者さんやそのご家族の話を聞き、要望や希望を受け止める時間(地域・家庭調整業務)も中途半端なままになってしまいます。場合によっては、患者さんのQOLは大幅に低下してしまうでしょう。逆に「診療パートナー」がいると、医師と業務を分担し医師の診療業務比率を上げられ、必然的に診療できる患者さんの数も増やせます。

 我々医院で以前、試算した作業割合ですと、「診療パートナー」がいないために医師がすべての業務を丸抱えする在宅医療では、患者さんのお話を聞き要望を吸い上げる地域・家庭調整業務が40%、カルテ作成業務が20%、診療業務が40%となります。それが「診療パートナー」がいて、しかも医師との連携が取れている場合の医師の作業割合は、地域・家庭調整業務が20%、カルテ作成業務が10%、そして医師の本来の業務である診療業務は70%に跳ね上がります。また、「診療パートナー」にとっては、カルテ作成業務が10%、診療補助業務が20%、地域・家庭調整業務が70%となり、より患者さんが自分らしく過ごすテーラーメードな在宅医療実現の可能性を広げることになります。

 在宅医療選びの条件の一つに、ぜひこの「診療パートナー」も加えていただければと思います。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事